「貴様、・・・!!その姿は!?」
驚愕するルキアを完全に無視しながらも、虚から庇うように背中でルキアの姿を隠しては立つ。


「な、何だテメエ・・・し、死神か!?」
「ああ、元、な。」
壮絶な、背筋が凍りつくような霊圧。燃え上がるような紅蓮の炎。

(“元”とかいうモノではない、こんな、こんな凄まじい霊力は隊長格・・・いや、それ以上!?)

震える膝を押さえながらルキアはの背中を見る。

「お前は、一体・・・・?!」






10:異端者





死神であるならば、ルキアが知らないはずはない。ましてこの力なら名が知れ渡らないわけもない。
しかしルキアは知らないし、それどころか数週間クラスメイトとして長い時間接したにも関わらず、その片鱗さえ気付けなかった。

違う、と、ルキアは直感する。
気付かせなかったのだ。が。

この莫大な存在感をいとも簡単に零にして。


「なあ、お願い聞いてくれない?朽木」

突然降ったの声にルキアは顔を上げる。
は顔を少しだけ振り向かせてルキアを視ていた。
射抜くように。


「終わったら、今の事忘れて。そしたら」

俺がお前と一護を、助けるよ。
まるで簡単な事の様にサラリと告げては笑う。

“助けるよ”

その言葉を、疑う理由はない。
そして、という目の前の人物が望まぬ未来を招く意味もないとルキアは思う。

関わるな、と言うべきだともルキアは思ったが、言えなかった。
関わるか否か。それを決めるのはであってルキアではない。


「約束しよう。」
「そか。良かった」


嘘のない声で告げたルキアには嬉しそうに笑った。
次の瞬間の霊圧は幻の如く消え失せ。


「ギャア!!」


虚の片腕が地に落ちた。









「・・・・何をした」
「何って、切ったんだけど?」

ケラケラと笑うの背中を呆然とルキアは見詰める。


(刀を抜いた瞬間も、腕の動きも、何も見えなかった)
目に残ったのは微笑んだの残像だけで、瞬きした瞬間には消えていた。
消えて、現れた。
虚の至近距離、懐に。


落ちた腕を拾い、叫ぶ虚を見下しては刀身を肩に乗せる。
「ホラホラ、さっさと喰いにかかれよクソヤロー。」
「何なんだテメエは・・・!!本当に死神か!?」

自分が食った死神が、まるでただの子供ではないかと虚は恐怖する。
狩る者と狩られる者の図形が、ここに完成している。

虚の言葉にはトントンと刀身で肩を叩いて不思議そうに眉を顰めた。

「元、死神。俺はもう死神じゃない。ただの、だ」

言って一歩踏み出したにビクリと反応して虚は後退る。
チラリとルキアを視界に入れて口元を歪めた。

(あっちの死神はクソ弱ぇ・・・捕まえて人質に・・・!)

虚はルキアめがけ地を蹴り、残った片腕を伸ばした。


ガキン!!

しかし寸前で再び間に入ったの、構えた斬魄刀に遮られる。
俯いたままのに虚は冷や汗を流し固まった。

ルキアは民家の塀との背中に挟まれ身動きが取れない。



「考えが浅いぜ、お前。」



は言葉と同時にクツリと笑う。



そしてスローモーションで唇を開き、彼の名を呼ぶ。


「明けろ、しのの・・・」



ゴッ!!!



が言い終わるより早く、の視界から虚が消え、代わりに逞しい腕が現れた。
その腕を辿り、顔を見ては目を見開き次に楽しそうに笑った。



「素手で殴るって、さすがだ。チャド」



自分の姿はチャドには見えないと確信しているは、チャドの腕に刀が触れぬよう引く。
見当違いな所でブンブン拳を振り続けるチャドにルキアは驚愕した。


「み、見えないうえに存在も感知できぬ相手に・・・!!あやつには恐怖心が無いのか!?」
ルキアの声を耳に、まぐれで再び虚を殴りつけるチャドを目に、はにっと口元だけで笑った。


「恐怖心の無い奴なんざいないよ。要は何が恐怖かって事だ。
 チャドにはチャドの恐怖がある。それは、自分が傷つく事じゃない。それだけだろ」

当然の事のように言い放ったに、ルキアは反問する。
「では、お主は何が恐怖なのだ」

は小さく肩を震わせてルキアを振り返る。
繋がった視線に僅かな揺らぎを残して、は息を吐いた。


「自由を失うことさ。・・・俺の自由は、俺だけのものじゃないからな」














「うーん。片手でも飛べるのか。ある意味たいした奴だ」
「感心しておる場合か!!」

空を仰ぎ空中に逃げた虚を眺めるにルキアは叱責を飛ばす。そしてギロリとチャドを睨んだ。
「ボーっとするな、逃げろ!!奴は飛んだ!!」
ルキアの言葉にチャドが珍しく素早い反応を見せる。

「転入生・・・あんた・・・ユウレイが見えるのか?」
「そんな事は今どうでも良い!!とにかくあの距離ではこちらの攻撃はとどかな」
「・・・どこだ?」
苛立ったように怒鳴るルキアの言葉を遮ってチャドは聞く。
ルキアは意図を掴みきれず答えに戸惑う。も不思議そうにチャドを見詰めた。

「・・・何?」
「・・・飛んでいるんだろう・・・どっちの方向だ・・・?」
「そんな事を聞いてどうす・・・」

ルキアどころか、すらチャドの行動に唖然とした。
チャドがイキナリ電柱にしがみ付いたのだ。
そして。


「こうする」


オオオオオオオオオオ!!!!


周囲にチャドの咆哮が響き渡り。


メキメキメキメキィ!!ボゴォ!!


「ま、マジ?」
がボソリと呟くその目の前でチャドは電柱を文字通りもぎ取った。
(・・・死神並だよ、あの怪力と頑丈さ・・・)
自分の必要性を今一度考え直しながらは苦笑う。


「さあ、・・・どっちの方向だ?」
チャドの声にルキアがハッとしたように叫んだ。


「そのままだ!!そのまま振り下ろせ!!」



憐れ安全圏に逃げおおせた筈の虚は地面に熱いキスをする事となった。

はゆっくりと近付き虚の背中を思い切り踏みつける。

「フゴォ!?」
「一護の仕事じゃなきゃ俺がテメエの腹掻っ捌いて、胃を引き摺り出してやりてえよ」

首筋に、切っ先を当てる。

「残念。ま、観念して大人しくしてな」





「・・・へへへへ・・・・」




この状態でも笑う虚のその余裕にルキアは眉を顰める。
「何が可笑しい」
ルキアの問いに虚はの足を背に乗せたまま更に笑う。


「へへ・・・いやなあ、考えねーのかなーと思ってよ。
 どうして俺が今まで二体も死神を喰えたのか、ってよ」

虚の言葉には手を震わせ、目を見開く。


「まったく・・・だからアンタ等死神は、どいつもこいつも俺達に喰われちまうんだぜ」

「チャド連れて離れろ、朽木!!」


の言葉と同時に。




周囲に無数の気配が生まれた。