「っっだああああああ!!鬱陶しい!!!」
は叫んで力任せに立ち上がる。
同時に跳ね飛ばした奇妙な生物を一匹踏み潰して、ルキアとチャドに視線を向けた。
先程までのと同じように無数の小さな生物に地面に押さえ込まれている。
はギロリ虚に視線を移す。
「合点がいったぜ、このちっせえ生きモンが仲間か。
騙し討ちで死神喰うとはな」
吐き捨てるの言葉に虚は引き攣った様に笑う。
「殺し合いだぜえ!?卑怯もなにもねえよ!!」
「・・・・へえ?」
は口を緩ませ何かを言いかけたが。
「ムオオオオオオオオ!!」
チャドの雄叫びに掻き消され、肩透かしを喰らって振り返る。
(うあ、生身でそれってスゲエ・・・)
チャドはと同じように力任せに立ち上がりルキアの上に居た生物を蹴り払う。
乾いた笑いを浮かべてはその光景に見入った。
その隙を突くように虚は再び空中に逃げる。
「あー、しまった」
呑気に声をあげて空を見上げたを見て、立ち上がったルキアは呆れたように息を吐いた。
11:選び取るものは
「朽木って、案外馬鹿だなあ」
「失敬な!!」
「・・・頭の悪い・・・作戦のような気はするが・・・」
空中に逃げた虚対策としてルキアが提案したのは。
「朽木ロケットランチャーBYチャド、みたいな?」
つまりチャドがルキアを抱えて、虚に向かって放り投げるという・・・。
は頭を掻いて、ルキアを抱えるチャドの腕に手を添えた。
の姿が見えないチャドは急に触れたその体温に戸惑うが、不快感の無いそれを振り払うことは無い。
「朽木、交代」
「!?」
「だってお前に怪我させたら黒崎に合わせる顔ないし、それに」
見上げるのその茶色い瞳に、ルキアの目は奪われる。
ゆっくりと優しく細められるその美しさに。
「カッコつけたい年頃なのさ☆」
わざとらしい軽口に釣られてルキアは苦笑いを零しチャドの腕から降りる。
「転入生?」
「そのままじっとしていろ」
不思議そうにするチャドに短く伝えて、ルキアは顎でに合図した。
頷いてはチャドの腕に乗る。
「!?」
チャドは驚いたようにルキアを見下ろしたが、ルキアの視線は既に虚へと向いていた。
「チャド、腕には代わりが乗っている。安心して投げ飛ばせ」
「・・・・ム」
ルキアの言葉を信じるしかないチャドは素直に頷いて腕に力を込めた。
スウッとルキアは大きく息を吸い。
「発射!!」
凛とした声音で、言い放った。
(俺は花火か大砲か・・・ああ、王子ロケットランチャーか)
頬を払う風の勢いに多少眉を顰めながらは愉快そうに笑った。
「ええええええええええ!?」
虚の目の前に到達したのは瞬間だった。驚く虚ににやりとは笑う。
「大人しくしてろって、言ったよな?」
しかし虚は瞬間表情を変え、不気味に笑う。
「テメエとまともにやり合うかよ、馬鹿が」
「・・・!!」
刹那、虚の肩に現れた先程の小さな生物が何かを吐き出し、はそれを頭から浴びる。
衝撃に体勢がぐらつきはそのまま地面に落下する。
それを見ていたルキアは一気に表情を変え息を詰める。
しかしそれはほんの一瞬で、形振り構わず走り出す。
そして。
「っ!?クソ、余計なことを・・・!!」
落下しながら、自分を受け止めようと走るルキアを視界に捕らえは焦って無理矢理に体勢を変えた。
それが祟って、無防備に背中を地面に叩き付けた。
「って・・・・・ぇ!!」
「!!この大馬鹿者!!」
何とか起き上がるに駆け寄りルキアは声を荒げる。
そのルキアの声にチャドは微かに反応する。
(・・・が、いるのか?)
は当然慌てた。
体中に張り付いたヒルのようなものを一匹剥がし取る。
「わ、馬鹿はお前!チャドに聞こえ・・」
しかしの声は遮られた。
「へへへへへへ!!そいつはただのヒルじゃねえ!!俺の標的だ!!」
地面に再び降りた虚が高笑いを上げる。
次の瞬間虚は奇妙な形の舌を突き出し、耳鳴りに似た高音を鳴らした。
それと同時に。
ドパ!!
「!!!」
の体中に張り付いたヒルが一斉に炸裂した。
(くそ・・・やり辛えな!!)
全身から噴出す自分の血液に深く眉を寄せては舌打ちする。
チャドが居ることもルキアが居ることも、イマイチ判らない、事の状況も。
の足枷である事は確かだが、だからと言って捨てる気にはならない。
壮絶な血の量にルキアは血相を変えたままに手をかざす。
しかしそれを半ば乱暴に掴み、は笑った。
口にも目にも生暖かい血が入るが気にはならない。
「馬鹿者、離せ・・・!恰好つけている場合か!!馬鹿者、馬鹿者!!お主に何かあれば私こそ一護に合わす顔が・・・!!」
泣いているような表情で叫ぶルキアを血で霞む目を凝らして見る。
(馬鹿馬鹿酷いな・・・)
苦笑を漏らし、はゆっくりとルキアの腕を離し、代わりにその小さな頭を一度、撫でる。
「違うだろ、この場合“ありがとう”が正しい。じゃなきゃ俺が可哀想じゃん?
俺的にはOK。お前じゃなくて、やっぱ良かった」
そういっては存外しっかりした様子で立ち上がる。
それをルキアは呆然と眺める。
そして揺らぐ目を一度瞑り、震える唇を噛み締めて、開く。
「・・・・ありがとう。」
ルキアの言葉には微かに目を見開き、心底嬉しそうに笑って“ああ”と答えた。
そしては再び虚を見据える。
口元に緩く笑みを浮かべたまま。
「なるほど、ヒルは小型爆弾か。テメエの舌で鳴らす音に反応・・・ね。死神喰ったってのも理解できるわな」
「俺の能力は飛べるだけだと思って油断してたろ!?まったく死神ってヤツは!!へへへへへ!!」
余裕を失わないに苛立ちながら虚は言い放つ。
その時、屈んだままのルキアの横にチャドが立った。
「チャド・・!お主はいい、私が・・・」
「がいるのか?」
ルキアに視線を向かわせないまま、チャドは視線を流す。
「転入生、・・・さっきの、代わりっていうのはなのか?」
ルキアは言葉に詰まる。それを見ては溜め息を吐いた。
(肯定だろその態度じゃ・・・)
勿論、チャドも同じように受け取る。
「そうか」
短く言って、一歩踏み出す。
(クソ、なんだってこう現実ってヤツは・・・!!)
が、ルキアにチャドを止めるように言い放つ前に。
「出てきたな、デカイの・・・テメエにはこれでどうだ?」
そう言って虚が目の前に出したのは。
「インコ・・・くそ、ムカつく!!そういう事かよ!!」
インコの入った鳥籠だった。その上にはあの、ヒルを吐き出す生物。
それを見ては舌打ちをした。
「どうしてここに・・・」
鳥籠とインコしか見えないチャドは尚も近付こうとする。
「ゴメンオジチャン、・・・ボク、ツカマッチャッタ・・・」
「・・・!!」
しかしインコのその言葉でチャドも状況を理解して、足を止めた。
(アレを取りに行く時間稼ぎに、飛んだのか)
とことん自分は鈍っているな、と忌々しく思いながらは虚を見る。
「で?んなモン出してどうしたい訳、オマエ」
の言葉に虚は猟奇的な笑みを浮かべた。
「逃げ回れ!!テメエみたいな強い死神を追い掛け回せるなんてなあ!!
捕まったら最後、おいしく頂くぜぇ、その魂をよ!!」
「ふん、腹壊すなよ?」
虚の言葉に従うようには足を少しずらす様に開いた。
振動は体中に伝わり大量の血液が地面に落ち、染み込んでゆく。
「・・・!!」
その光景に愕然としてルキアは声を上げる。しかしは振り返らない。
そのまま、背を向けたままで。
「動くなよ、インコ殺したくないだろ」
「・・・・・っ!!」
衝動的に“そんな事はどうでもいい”と言ってしまいそうになるのを耐えてルキアは唇を噛む。
自分は死神だ、と、言い聞かせながら。
「それでいい。あんま唇噛むなよ?傷がつく」
言って走り出したと、それを追う虚を眺めてルキアは歪む視界をなんとか落ち着かせる。
「お主は、傷だらけではないか、馬鹿者・・・!!」
何度目か分からない暴言を吐いてルキアは拳を握り締めた。