「ジン太ー、ウールルー!お菓子、お菓子やるからさ、この縄解いて?」


「・・・テッサイ怖ぇから嫌だね」


「・・・喜助さん、に・・・怒られたくないから・・・」





は縄でグルグル巻きにされ、布団の上に放置されている。

唯一自由になる口を使っても、日頃の浦原の教育が良いのか。





(クソ・・・)





子供二人はまるでの思い通りにはいかない。


歯噛みするを、ジン太は子供らしからぬ呆れたような視線で眺める。



「何だよクソガキ」


「別に」



少し苛立ったように視線を剥がすジン太には疑問符を浮かべ、ウルルは困ったように顔を歪めた。

ウルルはに近付き、屈んで縄を解き始めた。



「ウルル!」



ジン太が怒鳴るが、ウルルは珍しく怯まないでの顔をじっと見詰める。



「・・・皆、心配してるの・・・忘れちゃ駄目だよ・・・」



は微かに目を見開いて、それから心底嬉しそうに笑った。



「あぁ。そりゃ願っても消えない記憶さ」



同じように微笑むウルルと、なぜか頬を染めたジン太の頭を撫でては立ち上がる。






「さてと。学生の本分は学校へ行って黒崎をからかう。・・・これだな」






不調など微塵も感じさせない足取りで裏口へと向かった。












16:ソーワルピン












「あれ、黒崎はー?」




自由の身になったは当初の予定通り学校へ来ていた。

殆ど空に近い鞄を机の上に放り投げて、近くに居た水色と啓吾に声を掛ける。




「朝は居たけど。朽木さんとどこかへ行っちゃったみたいだよ」




水色の返事には“ふうん”とさして興味も無さそうに呟く。水色は一護を多少不憫に思いながらの姿を眺めた。




「気にならない?」





半分は一護の為に、もう半分は己の興味の為に。水色はあくまでついでの様に聞いた。


窓際に立ってだらしなく体を窓枠に預けたまま、は顔だけを水色に向けた。


ヘラリと笑う。


本気か嘘か、見抜けない。




「さあな。俺のみぞ知るってヤツ?」


「神じゃなくて?」




水色の反問にはフッと息を吐くように笑った。


珍しく、大人びていてどこか妖艶なその表情に水色は目を奪われる。





「俺は俺のモンだからな」





誇り高く言い放ったの表情に、水色は参ったっという様に両腕を挙げた。




キーンコーンカーンコーン。




丁度良いタイミングで鐘が鳴った。
















(なあんか・・・嫌な予感すんだよな)



チャド、啓吾、水色達と屋上で昼食を摂りながらは空を見上げた。


目の前にはカレーパン、サンドイッチ、おにぎり(梅)がある。


毎度のように啓吾がカレーパンを差し出し、何故かそれに最近はチャドや水色も加わっている。



(マジ無理。腹一杯で食えないし)



と思いつつもは咀嚼を繰り返す。


日頃傍若無人な態度をとっていても、基本的に人の無条件の優しさには弱いのが、という人物だった。



嫌な予感は、よく当たる。


寧ろ嫌な予感こそ良く当たる。



それは都合良く気付かない振りをしているだけで、実際確信に近いものを感じているからだ。




「あー・・・俺って可哀想。報われないよなー・・・」




の呟きを聞き逃さなかった三人は、意味は分からずとも同じ事を考えた。



そりゃあ、こっちのセリフだ、と。






 




「結局一護来なかったね」



屋上に続く階段を下りながら水色が言った。

数段前を行くは、まだ払拭できない胸騒ぎを抱えたまま曖昧に返事をする。



「外に食べに行ったのかな?」



それに苦笑いを零して水色は続ける。


「えー?なんであいつがわざわざ外に・・・・」



啓吾は眉を顰めた。


黙っていれば啓吾も二枚目なのに、とはどうでもいいことを考えながら啓吾の横顔を眺める。


「はっ!!そっ・・・そうか!一護のヤツめ、朽木さんと2人きりで・・・・」


啓吾の素っ頓狂な発言に水色は困惑して表情を崩した。

ああ、やっぱり啓吾は三枚目が似合ってるなあと、は頷く。



「啓吾、井上はもういいのか?」



ふと思い当たっては顔を啓吾に向け問う。




「ん?今でも井上さんは好きだぞ」




当然、という風な啓吾には笑った。

ここまでオープンで、しかも嫌味を感じさせないのは啓吾の人柄だった。

・・・単に、モテないという事実だけが啓吾のキャラじゃない。

人好きするというか、啓吾は周囲を幸せにする才能があるようには思う。



いざという時、そこに居るだけで人を救ってしまえるような。





「可愛いもんなー。」

は楽しそうに頷いた。

その表情に他の三人はまたもや複雑な感情を抱く。


(可愛いのはお前だ・・・・)


しかし言葉に出さないのは、言った所では当然だ、と笑うだけだと知っているからである。


「何。」



物思いに耽ったせいで、結果、を無視した形になり慌てて水色は話を続ける。



「つまり結局可愛ければ誰でも良いんだね?」



しかしその言葉は啓吾の心の地雷を踏んだ。




「ひっ・・・人聞きの悪い事言うなあ!!俺たちゃ健全な男子高生だぞ!!可愛い子は皆好きで何が悪い!?何が悪いか!!」

啓吾は水色の襟首を掴み、号泣しながら叫ぶ。


「わかった、わかったよ!何も悪くないよ!」


「可愛い子の中から更にセレクトするなんて贅沢はな!

 お前みたいなモテヒエラルキーの頂点に君臨する貴族にしか許されない邪悪な特権なんだぞ!!」


「ごめんなさいごめんなさい!モテるのでごめんなさい!!」



水色は泣き真似をしながらチャドにしがみ付いた。モテるのでいじめられるーと。


「泣くなチクショウ!泣きたいのはコッチだ!な、!!」


突如話題を振られたはフム、と考えて、それからゆっくりと唇で弧を描いた。


「・・・・っ」


啓吾は鳥肌が立つのを感じる。

表情だけで背中があわ立つ、この、感覚。

叩きつけられる、壮絶な色気。



「ん、俺も可愛ければ大好き」


「・・・や、俺とお前じゃ・・・何かが全く根本的に違う」



に腰砕けにされながら、啓吾はよろめいて唸るように呟いた。











嫌な予感ほど良く当たる。




廊下の窓から外を眺めて、は小さく溜め息を吐いた。



「・・・・改造魂魄・・・また厄介なモンに手を出したな」



の視界には、逃げる一護の身体とそれを追う死神一護とルキアの姿が収まっていた。


どうしようか、と考えて、ふと思い出す。



「・・・浦原の店に・・・義魂丸の粗悪品があったな」


・・・・・はあああああ。


は今度は盛大な溜め息を吐いて腰に手を当て、頭を掻いた。



「しゃーない、昨日の借りを返すか」




啓吾達が振り返った時には、の姿は消えていた。