「イエー!楽しいな、おい!」
誰に向かうでもなく、その喜びを全身で表現する改造魂魄には面食らう。
一護の姿で笑顔全開というのも十分アレだが、一護のスキップというのもなかなか拝める光景じゃない。
「兎に角改造魂魄は黒崎の体から引き剥がすとして・・・・その先、どうするかなー」
テンションを高く保ち、はしゃいでいる改造魂魄を眺めては呟いた。
嫌いな部類ではないな、とも思う。
あれほど喜んでいる彼を、世界を目の当たりにして歓喜している魂を嫌う理由も無い。
ただ逆に悲しくなる。
自分は彼を、暗い闇に再び堕とそうとしているのだと。
己の自由を盾になにかの自由を奪うその時、胸は痛む。
尸魂界の都合に振り回され、生死すら掌握された彼らに対してはも複雑な感情を抱いている。
あの業が過ぎる連中の尻拭いをするつもりはには無いが、それでも無視できないのは。
「・・・大事な奴らがいるからさ」
自分のように逃げ出さず、あの暗い汚泥のなかで戦っている。
心を預けた人達。そして。
かつて自分を、絶望の底から引き上げた人物を思い出し笑う。
あの生意気で、それでいて真摯な眼差しを。
心臓を奪うあの輝きを。
きっと自分のこの思いは届くことは無いだろう。絶大な距離に声は掻き消される。
それでも、と、は目蓋を閉じた。
それでも。
想いは、ここに在る。
17: ここに居る意味・僕が居る理由
改造魂魄。モッド・ソウル。
かつて尸魂界にあった、尖兵計画を根底で支える道具として開発された存在。
死んで魂の抜けた人間の身体に注入し、対虚用の尖兵となる戦闘に特化した疑似魂魄。
けれど尖兵計画はその非道さゆえに廃案になり、
ソレと同時に開発途中のものも含め全ての改造魂魄の破棄命令が下された。
「生まれた時点で、命には自由が渡される。他人が都合よく扱うのは、ああ、確かに愚かだ」
遥か過去と同じ言葉を吐き、はクツリと笑った。
リアルタイムで見たあの惨状を思い出す。
「・・・だけど、悪い。その身体は返してもらう」
それは大事な、あの馬鹿でお人好しなヤツのモノだから。
きっと今頃浦原達も探している。
粗悪品として破棄寸前だった改造魂魄が客の手に渡ったのだから連中もそれなりに必死だ。
そこまで考えてはフムと顎に指を置く。
浦原の手に渡れば間違いなく破棄される。
なんとなくそれは避けたい。
折角、幸運を呼んで生き残り、世界を知って自由を感じて最高だと叫ぶこの魂はきっと世界に祝福される。そう、は思う。
世界が愛するのは、いつだって世界を愛する存在だ。
それを護ろうとするのを、には罪だとは思えなかった。
一護の身体に入り込んだ改造魂魄は下肢の機能が特化された下部強化型だった。
ぴょーいぴょーいと有り得ない高さまで跳ね跳んで、幸せそうに散歩する改造魂魄を、少し離れた位置から見守りながらは頭を掻く。
目立っている。
途轍もなく、目立っている。一護(の身体)が。
当然と言えば当然だ。人間は5メートルもジャンプしない。しかもスキップ調など論外だ。
(あー・・・カワイソーに黒崎ってば変人か超人の仲間入りだな。天国と地獄、どっちだか。)
他人事だし、というように愉快そうに考えるの耳に、可愛らしい声が響いた。
「あ!お兄ちゃーん!」
「!?」
その声に勿論改造魂魄は反応しないが、その代わりにが凄まじい速さで顔を声のした方向へ向けた。
視界に入ったのは小学校の校舎。
そう、気付かないうちに改造魂魄と、それを追っていたは。
「黒崎の、妹・・・!?」
一護の妹二人が居る小学校前まで来てしまっていた。
「うわ、コレはちょっとヤバイな・・・」
見知らぬ人間の目など気にしなくても良かったが(せいぜい一護が変人or超人に分類されるだけで)。
身内となると話は変わってくる。
「あー、クソ。仕方ない」
は一気に改造魂魄との距離を縮めた。
オレにはまだ名前がない。
オレはまだ知らない。
オレはまだ視ていない。
オレがいる意味を。
オレがいる理由を。
オレが生まれた世界を。
悲しかったさ。
生まれた日には、死ぬ日が決まっていた。
だからあの時聞こえた言葉は、オレの救いだった。
“生まれた時点で、命には自由が渡される。他人が都合よく扱うのは、ああ、確かに愚かだ”
一番最初に与えられた知識。オレには自由が有るということ。
自由に生き自由に死ぬ。
そしていつかあの声に。
あのひとに会いたい。
そう願って生きてきた。生きるのに未来は必要だと思ったから、そう願い続けた。
だからって。
「こんな再会はあんまりじゃん!!」
「はあ?何言ってんだーお前」
一護(in改造魂魄)は、道のど真ん中に押し倒されて、怒鳴った。
つまりがこれ以上飛び跳ねないように背後から襲い掛かったのだ。
地面に頬を寄せたまま、両肩の脇に手を着くを振り返る。
記憶と違わぬ姿に改造魂魄は一気に泣きたくなった。
「あ、会いたかったんだ」
「・・・俺に?」
「・・・アンタに」
会いたかった。
まるで飽きた玩具を捨てるように、何の戸惑いもなく仲間達が殺されてゆくなかで。
あの言葉は光だった。
にとっては多くの改造魂魄に投げかけた、特別ではない言葉でも。
「オレ、アンタに・・・・」
その時、突如周囲一帯に闇が走った。
「・・・こんな時に」
は舌打ちする。
それは紛れも無く、虚の気配だった。