「しかもドンピシャ。ココに来るとはな」
「に、逃げないのかよ?」
「俺を誰だと思ってんの?」
はニヤリと笑って、改造魂魄の上から身体を退けた。
立ち上がりその先を見据えて言い放つ。
それを見上げて改造魂魄は、のその昂然とした姿に見惚れた。
「オレも、行く」
「逃げないのか?」
意地悪に微笑んで問うに笑顔を返して。
「オレを誰だと思ってんだ?」
自分でも不思議なほど自然に声が出た。
18: ここからが君の世界
足が強いんだろ、お前。
の言葉に頷けば「よし、立て」と手を差し出された。
意外と小さな掌を握り返したら信じられない力強さで引き上げられる。苦笑いが出た。
「ありがとう」
改造魂魄がそう言うと、は大きな瞳を更に大きく見開いて改造魂魄を見詰める。
そしてポンと手を叩いた。
「・・・あーあーあー。思い出した。お前あん時の改造魂魄か。」
「え?」
まさか一山100円で売られていそうなほど山積みにされていた改造魂魄の中で、自分がの記憶に残っていたとは思わず驚く。
微かに運命めいたものを感じてしまう自分は、なにかの熱に浮かされているのか。
「だってお前だけだったろ。“ありがとう”って言ったの」
は大きく笑った。そして自分よりもずっと背の高い一護の身体に入っている改造魂魄の頭をワシワシ撫でる。
「あの状況で“死神”の俺に礼を言えるのは凄いって、思ったんだぜ」
「・・・それは」
(だって、オレは、救われたんだから。言葉一つで到底返せるようなものじゃないって、歯痒かった。)
複雑な思いで顔を俯かせる改造魂魄に、はもう一度大きく笑って今度は背中を押すように叩く。
「よしよし。良く生き抜いたなー。しかも俺に会えた。こりゃあ確実にお前は世界に祝福されてる。
一護の身体はやれないが、まあ何とかなるだろ。袖刷りあうも他生の縁。俺はお前を助けるぜ」
「違くて!」
「は?」
「違う、から。アンタに会いたかったのは、だから・・・」
虚の声が響く。もう近い。
襲われるのはきっと、この小学校の生徒だろう。
言いよどむ改造魂魄の言葉を待たず、は走り出した。慌ててその背中を追いながら呟く。
手を、足を、身体を手に入れたら。生き延びて、生き抜いて、それが叶えば。
アンタに会いたかった。そして。
「オレが、アンタを護りたいんだ」
アンタの言葉が、オレを今でも護ってくれるように。
現れた虚は、百足のような形態だった。
虫嫌いのは不愉快そうに眉を顰める。
改造魂魄は襲われそうになっていた男子生徒三人を咄嗟に抱えて、その強靭な足で一気に虚から距離を置く。
拍手を送るに少し照れながら、抱えた子供の身体を地面に放り出した。
そして叫ぶ。
「逃げろ!!」
しかし虚が見えない三人は、当然ながらその言葉を理解しない。
「はあ!?・・・な、何なんだよイキナリ・・・」
三人のうち、眼鏡をかけた生意気そうな子供が言う。それに背を押されたのか、他の二人も頷いた。
改造魂魄は苛立って声を荒げる。
「早くしろ!!死にてえのか!?
あっちに行くんだよ!!」
「逃げるったって・・・・なあ」
まるで不審者を見る目つきで改造魂魄を見ながら顔を見合わせる三人に、は満面の笑顔で近付いた。
そして屈み、視線を合わせて頭を鷲掴みフーッと息を吐く。
「わかんないかなー、ボク達。鬼ごっこなわけよ。俺が鬼ね。で、お前らは逃げる、俺が追う。捕まったらどうなると思う?」
「お、鬼・・・交代?」
「ブブー。」
は顔を近づけて表情を変えた。悪魔のような黒い笑顔に。
「俺に喰われるんだよ。骨までな。さぞかし美味いだろうぜ、クソガキの肉は」
ニタリ。
それが真実だと信じ込ませてしまえるほどの顔に、少年三人は固まった。
そして悲鳴をあげながら走り出す。
「あははははははははははははははははは!!」
心底愉快そうに、そして幸せそうに笑うのその後ろで、改造魂魄は垣間見たの黒い部分に涙していた。
「さあて、どうするかなー。焼く?煮る?蒸す?燻る?炒める?炊く?茹でる?」
「な、何の話・・・・」
「ムカデ調理方法」
「喰うのかよ!?」
「お前がね」
虚とビルの屋上で対峙しても、の余裕は翳りを見せない。
護りたいという自分が途方も無い阿保みたいで悲しい。改造魂魄は報われない想いに再び涙する。
「天才シェフクンの腕前をみせちゃいましょーかね。ふふふ・・・・ふ?」
指を鳴らしながら虚に近付いていくを、改造魂魄は止めようとしたが。
その前には足を止め、視線を動かし溜め息を吐いた。
「あーあ、つまんねーの」
「な、何」
呟きに改造魂魄がその視線を辿る。
そしてその先に行き着く前に、改造魂魄の目の前にそれは現れた。
それは虚に瞬く間に斬りかかり、薙ぎ伏せる。あっけなく虚は塵と化した。
は口笛を吹いてそれを眺めていた。
「遅いと言うべきか早いと言うべきか、悩み所だなー黒崎」
能天気な声音に、それ改め一護は青筋を立てを睨み付けた。
「何でお前がいんだよ!!!」
「えー、通行人ってやつ?」
「んなワケあるか!!」
「おおっと、嫌だねー頭でっかちは。
もっと視野を広げて柔軟に生きたほうが楽だぞ?そんなだから貧乏クジばっか引くんだよ」
「話題すり替えて誤魔化すな!!」
「だってお前の身体だろ?」
何でもない様に放ったの言葉に、一護は固まった。そのままを凝視する。
はヘラリと笑って言葉を続けた。
「お前の身体じゃん。放っておけなかったんだよ」
一護は力が抜けたのか、その場にしゃがみ込んで顔を覆い唸った。
「・・・クソ、狡いんだよ、テメーはっ・・・」
「そうかぁ?友人想いだろがー」
「・・・生身で、無茶すんなよ。死ぬだろ」
「いやあんな雑魚相手に死なないっつうの」
「・・・・じゃなくて」
一護は手を下ろし、顔を上げた。ゆっくりと腕を伸ばしの後頭部に掌を添えて自分に引き寄せる。
の耳が一護の心臓の位置に当たった。
「・・・動悸スゲエ」
「テメーのせいだ」
生身で虚と向かい合うの姿を見た瞬間、自分の体の事など吹っ飛んだ。
心臓が一瞬止まった気さえした。
「・・・心配させんな。・・・心労でオレが死ぬ」
「あーね。ナルホド」
一護の懐に収まったままくつくつと笑うに、一護は頬を染め、改造魂魄は不愉快そうに顔を歪ませた。
つかつかと歩み寄り、一護の襟首を掴んで引き剥がす。
「うお!?何しやがるテメエ!!」
ポポイと放り投げられた一護は盛大に怒鳴ったが、改造魂魄はそ知らぬ顔でを背で隠した。
そしてベーっと舌を出す。
「ウルセーこのムッツリ君が!!ベタベタしてんじゃねえよ!!」
「はあ!?」
一護は瞬時に理解した。つまり、この改造魂魄は自分と同類だ、と。
に捕まった同じ穴の狢だ。
尚更引くわけにはいかない。
喧々囂々、二人の言い争いが続く中でだけが一人呑気に欠伸をしていた。
「おーやおや。やーっと見つけたと思ったら、喧嘩中ッスか」
そこに聞きなれた声が響き、欠伸を途中で止めて声の主を見る。
深々と帽子を被った長身の男。
浦原だった。
(・・・ヤバイ)
そろりと逃げ出そうとするが。
「しかもサンもご一緒で」
目聡く見つけられ、は肩を落とした。
「やー、インチキ商人サンこんにちはー」
振り返りわざとらしく手を振れば、満面の笑顔で手を振り返される。
「ハイ、コンニチハ。さてどういう事っスかねえ。アタシは今日は外出禁止だと言った筈ですよねえ」
「あー、まて、浦原。落ち着こう。話し合おう。」
は本能的に浦原の怒りを察知し、慌てて低姿勢に切り替えるが時既に遅し。
浦原の笑顔は、目が笑っていなかった。
「そうっすねー。この際軽く監禁しちゃいましょうか?それとも鎖で繋いでおきましょーか」
「スイマセン許してください」
「ま、それは後でじっくり話し合うとして・・・」
浦原は言うなり改造魂魄に振り向き、持っていた杖を翳した。そして額に押し当て魂魄を無造作に抜き取る。
地面に転がった小さな球を拾い上げ、倒れた一護の体には目もくれない。
「さて、任務かーんりょー。帰るよみんな!」
球を掌で弄びながら軽く言う浦原に、商店の一同はブーイングをあげる。
一護は慌てて浦原に駆け寄った。
改造魂魄のその経緯をルキアに聞いていたのだ。
「ちょっと待てよ!そいつをどうする気だ!?」
「どうって・・・破棄するんですが?」
「・・・オレが見えるんだな?アンタ何者だ・・・?」
「はて、何者と訊かれましても・・・」
「腹黒極悪インチキ商人サンだ。」
浦原の代わりに答えたのはだった。
浦原の背後から改造魂魄を奪い取る。
「浦原。取引といこーか」
「取引?」
「そ。コイツを破棄した場合、俺はお前のトコにはもう一生寄り付かない」
「う」
「破棄しないで黒崎に返した場合、今日もこのまま大人しく帰る」
「・・・・・」
なんと理不尽な条件か。浦原は唸った。しかし背後ではウルルとジン太、それにテッサイまでが視線で訴えている。
を取らないと許さない、と。
(イエ、確かにアタシも嫌ですけどね、そんな・・・一生だなんて)
浦原は暫らく考えて、大きく息を吐き両腕を上げた。降参のポーズである。
「応じましょう、その取引」
「賢明だな」
「しかしですね」
浦原はの肩越しに一護を見た。
繋がる視線。
そしてそれまでの顔色を変えた。何かを護る為に現れる壁を打ち立てる。
「・・・・知りませんよ?面倒なことになったら、あたしら姿くらましますからね。
当然、サンも。無理矢理にでも引っ張って、連れて行きますから」
一護は浦原の本気を感じ取り、気圧されて生唾を飲む。
カワイソーに、とは小さく笑って一護を振り返り腕を差し出した。
一護の掌に、改造魂魄が落とされる。
「・・・あ、ありがとな・・・その、大丈夫なのか、さっきの条件」
「あー、ま、気にすんな。単にアイツ、俺が勝手に抜け出したの怒ってるだけだし」
「・・・・抜け出した?」
「うん。具合悪いんだけどさー。暇だから学校行くっつったら寝てろって言うんだよ。だから抜け出したワケ」
一護はその一瞬で浦原に心底同情した。
見れば浦原はなんとも情けない顔つきで頭を抱えている。
一護はポンとの肩に手を置き。
「寝てろーーーーーーーーーー!!!!!」
盛大に怒鳴りつけた。