2:恋愛感情





晴れ渡った青空。
丁度イイ気温、丁度イイ風。

休日にはもってこいの天候だ。


は空を見上げ大きく息を吸い、吐く。



「いー天気だ。散歩日和だ。青春を謳歌するに相応しいと思わねえ?」
顔を上げたまま言うを一護は睨みつける。

「・・・何が言いてえんだ?」

不機嫌極まりない一護の声にはベンチに寝転がり一護を見上げる。眩しそうに目を細めながら。

「俺お前の家に遊びに行こうとしたの。青春だよな?
んでその途中の公園でお前は朽木とデートしてんのを見つけた。デート。青春だ。
だけど暫らく様子を(盗み)見てて思ったわけ」


一護はギクリと顔を強張らせる。
ルキアに視線で助けを求めるが生憎ルキアは現代語の学習中。・・・つまり漫画に熱中していて気付いていない。

「黒崎はブンブンバット振り回して朽木は漫画読みながら大音量で独り言を言ってる。
思ったね、ああ、彼らは俺の理解できない領域に達した仲だ、とさ。オメデトウ」

ケラケラ笑って言う
確かに、事情を知らない第三者が見れば一護やルキアの行動は不審極まりない。納得のいく意見だ。
事情を言えないのだから反論のしようも無い。
だが、それでも。至極尤もな意見でも、が言うと・・・。

(なんっか・・・ムカつく!!!)

額に青筋を立て拳を握り、怒鳴りたい衝動を必死で抑える。
それを笑うを、一護は酷く恨めしく思った。

隠し事をしている後ろめたさは確かにあって、本当なら全てを話したい。嘘を嘘で隠すしかなくなる前に。
けれど巻き込みたくは無い。危険に晒したくない。繰り返されるジレンマ。

しかし偶にふと思う事がある。


は全てを知っているのではないか、と。
そう思うのはの茶色の瞳孔がまるで。


何もかもを晒し、暴くようで。


(馬鹿馬鹿しい・・・)
一護は頭を軽く振ってを見た。はベンチから離れ、今度はルキアに近付き挨拶している。
少し離れた所からそれを眺め、一護は溜め息を吐いた。


はルキアと喋りながらコロコロと表情を変える。
一護は自然と自分が微笑んでいるのに気付かないままそれを眺めた。



「コショウ入りボール100本ノック!!?
あはははははは!!ダセェーーーーーーー!!」

「ルキア、テメエーーーーー!!!!!」


しかしの出した大声で一護はたちに向かい猛ダッシュ。
腹を抱えて大笑いするをルキアから引き離す。


、もう帰れ!!今日は遊べねえから!!」
「なんだよ、俺と朽木に妬いてんの?無理無理、美少女には美少年。これが世界の鉄則だ」
「何の話だ!!」


顔を真っ赤に怒鳴る一護。
は愉快そうに笑いながら一護の肩を軽く叩いた。


「ホラホラ黒崎、コショウボールが待ってるぜ」
「黙れ!!」


二人の鬼ごっこは暫らくの間続いた。









「お?」

一護に追い掛けられながらも余裕で逃げ回っていたが、ピタリと足を止めた。
つられて一護も足を止めの視線を辿る。
土手の上、そこには足を多少引き摺りながら歩く織姫の姿があった。

「井上か」
「ちょっとそこに居ろ」


は言って井上に駆け寄って行った。残された一護は眉間の皺をさらに深くしてその光景を眺める。
(アイツ、もしかして井上の事・・・)

「男の嫉妬は見苦しいぞ、一護」
「うわ!!ルキア!!」


立ち竦んでいた一護の背後にいつの間にか居たルキアはにやにやと笑っている。
「テメエもか!!俺は別に井上の事・・・」
という男だ」
言葉を遮られ、告げられたルキアの台詞に一護は固まった。


「・・・・あ?」


振り返り、ルキアを睨む。
その類の話に疎い一護にとって、まさか自分が、しかも同性相手に恋愛感情を抱いていると言われるなど寝耳に水だった。
「お主を見ていれば分かる」
自信満々に言い放つルキアに一護は脱力した。

「お前ホラーの他にも変な漫画読んでんだろ。アホか、男同士だぞ」
「性別など、なぜ関係する。恋愛は感情が司るものだ。種の存続を投げ捨てる想いも、ある。」

一護は大きく鳴る心臓の音に内心慌てていた。
認めてはならない。気付いてはならない。そう理性が警告音を鳴らす。
しかし。

「己の感情に気付かぬのか。だからお主はたわけと言うのだ」



一護は何も答えられず、ただ、の姿を見つめていた。








「足、平気?」
心配そうに尋ねるに織姫はパタパタと手を振る。

「うん、平気だよ。昨日は、ありがとう。助けてくれて」

昨夜、車に撥ねられそうになった織姫をが助けた。が、織姫は腕と足に怪我を負ったのだ。
大きな痣のついた足を見下ろしは睫毛を伏せる。

「助けたうちには入らないよ。怪我しちゃってる。痛いだろ?」
ただの事故なら助けられた。はそう思う。

足の痣。昨日より酷くなっている・・・コレは。

君、優しいんだね」

織姫が漏らした言葉には顔を上げた。
「俺は女の子に対しては王子様なんだ。知らなかった?」

言うと織姫は少し困った様に笑った。それを見てはポンッと手を叩く。

「ああ、井上の大好きな一護を苛めてるから?俺の事嫌い?」
「きききき嫌いじゃないよ!!全然、絶対!!」

力を込めて否定する織姫に、は柔らかい笑みを零す。甘く、ウットリと。
そういう表情がいらぬ誤解を招くと、本人は気付いていない。

「良かった。美少女に嫌われると野望が遠ざかる」
「野望?」
「そう、美少女ハーレム。ぜひ参加してね」


織姫は大きく笑って、頷いた。


「下に黒崎居るけど、降りるの手伝おうか?」
「あ、ホントだ!大丈夫、ひとりで行けるよ。君は行かないの?」

「俺は帰るよ。用事思い出したし」

そう言っては土手下の一護に手を振った。


「黒崎〜!!俺帰るなー」


「ああ!?オイ、・・・!!」


何やら文句を言っている一護を無視しては織姫に向き直る。
「一護に送ってもらってよ」
の台詞に織姫は顔を赤くして俯いた。

「井上は可愛いなー。頑張って黒崎落とせよ?あいつはイイ男だ」
君もイイ男だよ」
間髪入れず返された織姫の言葉にはにやりと笑う。

「当然」

グシャグシャと織姫の髪をかき混ぜは去っていった。


その後姿を眺めながら織姫は笑顔で呟いた。




「だから、一番の強敵は君なんだよ」