4:今と過去そして未来
は内心酷く苛立っていた。
原因は一護。
織姫が魂になっていると知った瞬間隙を作り虚に吹き飛ばされたのだ。
ここまで役に立たないとは、とは思うが、それも一護が無事であったを確認したからで。
一瞬心臓が潰れそうになったのは事実。
そもそも自分の反応も鈍い、とは忌々しく思う。
数年のブランクが途方も無く重い。が、徐々に勘は戻りつつある。
織姫を掴み上げた虚を見上げは薄く笑みを湛える。
東雲が疼くのを片腕で抑えながら。
「離してよ、離して!!」
織姫の声が、響く。
は笑みを消して織姫の横顔を見詰めた。織姫は虚の大きな手に噛み付いている。
オイオイ、とは場にそぐわない苦笑いを零した。
「本当に、俺を忘れてしまったのかい・・・?」
悲しさが滲む虚の声に織姫は顔を上げる。
も、振り上げようとした腕を止めた。
「俺だよ、織姫・・・!」
髪を掻き上げ、覗いた虚の顔に織姫は息を呑んだ。その様子を見ては舌打ちをする。
織姫が気付いた。己の兄だ、と知った。
問答無用で、目の前で切り捨てることができない。織姫の心に傷を残すことになるから。
は斬魄刀を肩に担ぎ虚を仰いだ。
「なあ、聞くけどよ。アンタ何で黒崎や有沢まで襲った?食いたかったのは井上だけじゃねえの?」
酷く淡々と、世間話でもするかの様な軽い口調に織姫は言葉を失う。
虚は織姫からへと視線を移し見下ろす。
「どうして?決まってるだろう・・・あの二人は俺と織姫の引き裂こうとしたからだよ。
毎日俺の為に祈る織姫を見て、救われていた。なのに、あの女が現れてその回数は目に見えて減り、そして黒崎一護が現れて・・・!!
織姫は、俺の為に祈ることをしなくなった!!」
虚の腹の其処に響くような怒号にはピクリと眉を跳ねさせた。
斬魄刀を握る掌に力が篭もる。
「毎日、いつだって、俺の前で話すことは黒崎のことばかりだ!!辛かった・・・織姫の心から日毎俺の姿が消えていくのを見るのは」
「もういいヤメロ」
は低い声でその声を制止する。
しかし虚は止まらず、視線を織姫に戻し言葉を続けた。
「俺は寂しかったよ、織姫。寂しくて寂しくて何度お前を殺「ヤメロッつってんだろうがこのクソ兄貴があああああああああ!!!!」
言葉を怒声で遮り、その瞬間虚の背後に現れた一護を襲う虚の尾を刹那切り捨てては激昂した。
茶色の双眸に純粋な怒りの色を宿し怒鳴りつける。
「死んだ奴の事をいつまでも面倒見れるか!!
井上はなァ、生きてんだぞ!!テメエと違って生きてんだよ!!ついでに親友もいて好きな男もいて、加えて俺のような奇跡の美少年・THE王子様もいて!!
幸せなんだよ、ちゃんと、ここで!!
テメエの人生懸けて大事にしてた妹なんだろうが!!ソイツが生きてる!幸せでいる!それで十分じゃねえのかよ!!」
ありがとうって。そう言うべきじゃないのかよ。
はそう心の中で加える。唇を噛み締めて思う。
生きていてくれてありがとう。幸せでいてくれてありがとう。
愛した人なら、そう、伝えるべきだ。
「・・・どうして」
沈黙した虚に織姫が言葉を零した。自然と視線が集まる。
「どうして、こんな事するの・・・?あたしのお兄ちゃんは、こんな事する人じゃなかったのに・・・!」
その言葉が踏んだのは地雷だった。
虚は正気を失ったように織姫を掴み、締め上げる。織姫のくぐもった悲鳴にの脳が強く揺れた。
「殺してやる!!俺をこんなにしたのは誰だと思ってるんだ・・!!お前だろう、織姫!!
殺してやる・・・殺してやる殺してやる殺してやるぞ織姫!!!」
「この・・・!!」
虚の言葉と行動には一瞬ついてゆけず遅れて反応する。
元は人の魂だった?だから何だって言うんだ。
こうなればもう、本当にただの化け物じゃねえか。愛を忘れたら、もう。
は斬魄刀を握り締め覚悟を決める。
斬り伏すしかない。織姫の目の前で。しかしそれならばそれは自分の役目だ、と。
(好きな人に、して欲しくないもんな。井上)
は斬魄刀を大きく上へ掲げた。
罪人の首を落とす処刑道具の如く。
しかし、それが届くより早く。
「・・・・黒崎?」
一護の巨大な斬魄刀が、織姫を掴む虚の腕を手首から切り落とした。
「・・・・兄貴ってのが、どうして一番最初に生まれてくるか知ってるか・・・?」
腕を持ち上げたまま俯き呟く一護。
は床に投げ出された織姫に駆け寄り声を掛けようとするが、できなかった。
織姫の視線はただ一護に注がれていた。
(ま、いいけどね)
は織姫の体を視線で調べ、さしたる傷はないことを確認する。
現時点で一番大怪我をしているのは一護だというのは褒めるべきかどうか悩んだ。
けれど。
「後から生まれてくる妹や弟を守る為だ!!兄貴が妹に向かって“殺してやる”なんて、死んでも言うんじゃねえよ!!」
一護の言葉に。
はフ、と、ゆるく笑った。
(ああ、格好イイじゃねえか、黒崎!)
「なぜだ、なぜ邪魔をする!!黒崎一護オオオオオ!!!」
叫ぶ虚に視線を移しはその顔から表情を消した。目に宿る感情も無い。
それを視界の隅に捕らえた一護が一瞬隙を作り、虚はそれを逃さず一護に突っ込む。
「・・・・!!!」
一護は斬魄刀を構え衝撃に構えた。が。
「井上を離した時点でチェックメイト。本気で、俺も怒っちゃうよ」
耳に入ったのは少し遠い衝撃音と静かなの声のみ。
一護が目を開くと間の前にはが、背で一護を隠し庇うように立っていた。
いとも簡単に、片手だけで構えた斬魄刀で虚の勢いを食い止めている。
小さいはずのその背中が途方も無く大きく見えて一護は愕然とする。
たったそれだけで、何かの大きな差を見せ付けられた気がした。
しかもそれは同時に実力の差でもあるのだと直感する。
「織姫は俺のものだ!!俺は織姫の為に生きた!!なのに織姫は俺の為に生きてはくれない!!なら俺の為に死ぬべきだ!!!」
狂ったように虚は叫び、の斬魄刀を弾く様に方向を変え織姫へと疾走した。
は舌打ちをし、虚の頭めがけ斬魄刀を振り下ろそうとした。
しかしその一瞬に織姫と目が合い、その決意が滲んだ色に腕を寸前で止める。
「やめろ!!!!」
一護の叫びが響いた時。
己の肩に喰らいついた虚を、織姫はそっと抱き締めていた。
「・・・ごめんね、お兄ちゃん・・・」
は、斬魄刀を鞘に納めその場から姿を消した。
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うああああああああああああああ。神よ、我が脳に才能と少しばかりのアイデアを授けたまえ!!