「あれー?小島ぁ、黒崎はー?」
昼休み、は教室を見回し声を上げる。
名を呼ばれた水色は、手にお弁当とお茶を持って顎で天井を指した。

「屋上じゃない?いつも通り」
「なんで俺を置いてくんだあんにゃろう」

最近冷たい、と零すに水色は苦笑いを返す。
二人並んで廊下を歩き、目指すは一護のいる屋上。

階段を上りながら水色はふと足を止める。

「最近一護、朽木さんと仲良いみたいだよ。よく一緒に居るし」
は顔だけ振り返り水色を見る。

水色は珍しく意地悪な笑みを浮かべていた。
「見切りつけて僕にしとく?」
「年増女にしか興味無いくせに」

本気にせず笑い飛ばすに水色はいつも通りの柔らかい笑みを浮かべて。

「年上の、大人の女性って言ってよ。酷いなあ」

止めていた足を動かした。








7:間接的感情





屋上の扉を開けたの視界に広がった光景は一護とルキアのツーショットだった。

「ホラ、やっぱり」
水色の言葉にはフム、と考える。
「ここは無難に黒崎の成長を褒めるか、それとも素直にからかい倒すか・・・。難しい所だ」
顎に手を当て真剣に悩むに水色は少し驚いて首を傾げた。

「アレ?実際はどうでもいいんだ、あの二人が付き合ってるとかそういうのは」
「ふふん、俺は心が広いからなー」
「それって色んな意味に取れるよね・・・」


二人は軽口を叩きながら一護とルキアに近付く。

「キミ達随分仲が良いんだねえ」
水色は一護にそう声を掛け、ルキアとは反対側の一護の隣に座る。
否定する一護と水色の会話を聞き流しながらはルキアの隣に座った。


「朽木、なにしてんの?」

「え、君・・・?コレの飲み方が分からなくって・・・」
戸惑いながらルキアがに見せたのは紙パックのいちごみるく。
は一瞬キョトンとして、それからフ、と笑った。

ルキアの手からいちごみるくをそっと奪い、ストローを取り外してルキアに見せる。

「ストローがコレね。コレをここにこう挿す。で、吸う」

ちゅー。

「・・・・ね。簡単。ゴチソーサマ」

一口飲んではいちごみるくをルキアに返し、立ち上がってルキアを見下ろす。
ルキアはストローを口に含みソレを見上げた。
の背中が丁度太陽を隠し、ルキアに影が掛かった。

「へへー、間接キスだね」
「ブッ!!」


噴出し激しく咳き込むルキアを見てはケラケラと笑って、水色と一護の間に腰を下ろした。


「なにしてんだ、お前は」
すぐさま一護の不機嫌そうな声が耳に入り、は一護の顔を覗いた。
一護はと視線を合わせず、前を見据えたまま野菜ジュースを飲んでいる。

「黒崎こそ、俺置いて先に行くなんて酷いだろ。」
「イチイチ言うか。面倒くせえ」

はムッとして視線を逸らし、水色に顔を向けた。

「何?」
笑顔で聞く水色には寄り掛かるように密着する。
反対側で一護の空気が張り詰めるのを肌で感じは口元に笑みを浮かべた。

「小島、玉子焼きチョーダイ」

腕を組むように絡ませて、意図的な上目遣いで甘えるに水色は苦笑いを零し玉子焼きを箸でつまんだ。
(結局ボクは当て馬なんだ)
心の中で呟きながら玉子焼きをの口に持ってゆく。

「あーーーーーーんごふぉあ!!」


の大きく開いた口に、玉子焼きが到達するよりも早く。


「んごほむごほんぐぐぐぐ!!!」


一護の食べかけのカレーパンが、の口に詰め込まれた。は慌てて水色のお茶を奪い取り口に流し込む。

「何すんだ、クソ蜜柑頭!!殺す気か、テメエ!!」
顔を真っ赤にして立ち上がり怒鳴る
知らん顔で空になった野菜ジュースの紙パックをベコベコ鳴らす一護。

水色は溜め息を吐いてからお茶を奪い返した。
「今のはが悪いよ。」
「なんで!!」
「わざとでしょ?だから。」
「ぐぐぐぐぐ!!」

は悔しそうに地団太を踏んで、再びドカッと腰を下ろした。
ギロリと一護を睨む。

「やるようになりやがって・・・可愛げねえな!!」
「言ってろ馬鹿」

一護は冷たく返す。しかし内心穏やかではなかった。
水色相手に嫉妬したのは明らかで、しかも水色本人にもバレている。
こうまでなると自覚しないわけにはいかない。

に対する自分の感情の意味を。

(・・・・冗談じゃねえよ)
声にならない呟きを零して眩しい太陽に目を細める。

報われる見込みの無い非生産的な想いに身を投じるなんてなんて滑稽な悪夢だ。
眉間の皴がいつもより更に深くなるのを感じて一護は目蓋を閉じた。







「おーす。一緒してイイッスかー」

「おー・・・啓吾」

その微妙な空気を変えたのは良い意味でも悪い意味でもムードメーカーな啓吾だった。
はパタパタと手を振って応える。

「あれ、チャドは?」
啓吾は周囲を見回すがチャドの姿は無い。
「そういえば見てないね」
水色は今気付いたように言い、啓吾は“おかしーな”と呟きながられの目の前にしゃがんだ。

「ホレ」

啓吾が差し出したのはメロンパンとコーヒー牛乳。
は頭に疑問符を浮かべながらソレを受け取った。

「何だコレ」
しげしげとメロンパンを眺めながら問うの頭を乱暴に撫でて啓吾は笑った。
「昼飯。やっぱ食べないと駄目だろ」
その啓吾の言葉と笑顔につられるようには満面で笑う。子供のように無邪気に。

「サンキュ。啓吾のそーいうとこスゲエ好きだぞ」

の笑顔はまさに武器そのもの。
周囲の男三人、女一人は見事に固まった。



「や、やや!!そこにあるは美少女転校生の朽木さん!!」
間を置いて我に帰った啓吾は、照れ隠しなのか誤魔化しなのか、かなりのオーバーアクションでルキアに視線を向け声を張り上げた。
ルキアの反応も遅れ、代わりに水色が口を開いた。

「一護が口説き落として連れてきたんだよ」
「バッ・・ちが・・・」
「なにい!?一護・・・グッジョブ!!!」
「お・・・おう・・・」

喜劇に似たソレをは愉快そうに眺めメロンパンを頬張った。
平和だー、と、とことん呑気に考えながら。











しかし平和は脆くも崩れ去る。





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    主人公は魔性。老若男女問わずメロメロにしてゆく気です。