ドン!!

「おうッ!?」

何者かに膝で背中を押され、啓吾はつんのめりながら何とか体勢を立て直し振り返る。
「っ痛ーな!!なにす・・・る・・・」
そこまで言って啓吾は言葉に詰まる。

啓吾を蹴飛ばしたのは、学内でも不良と有名でつい先日まで停学中だった大島(+1)だった。

「よー黒崎」

大島は啓吾を無視し、一護に近付く。一護は意に介さずサンドイッチを咀嚼し、その様子をは興味無さそうに眺めた。
このコーヒー牛乳美味いな、などとどうでもいい事を考えながら。

「黒崎テメーいつになったら頭染めてくンだよ。髪染めててタレ目って俺とキャラモロカブリなんだよテメー」
詰め寄る大島に一護は青筋を立てて睨み上げた。









8:インコと秘密








                                                  
注:大島はお世辞にも整った顔立ちとは言えずまあぶっちゃけ不細工である。



「ウルセーな、コレは地毛だって何回言わせんだよ。ていうかキャラもかぶってねー。」
苛ついたように言う一護の隣では口いっぱいにパンを含んだまま笑う。

「ほーほー。ほへへひゃらはふっへんはらひんふいみはふほーんはっふうほ、ほのひほほあはは。ははみみへへなほひへほい」
「“そうそう。それでキャラかぶってんなら人類皆クローンだっつうの、このピヨコ頭。鏡見て出直して来い”と言ってます」 

理解不能なのセリフを一言一句間違わず水色が冷静に翻訳する。
ソレが余計に大島の怒りを煽った。

「テ、テメエ!!!」

怒りを露にに詰め寄ろうとする大島の前に啓吾が体を割り込ませた。
おやや、とは目を見開く。

「まーまーまー!やめよ喧嘩は!な!」
「どけ浅野!!そのボケと黒崎はブッ殺す!!」

止める啓吾をどかそうとする大島。
彼は気付いていないが、啓吾に行動は結果的に彼自身の身の安全を守っている。

大島がをボケ呼ばわりした瞬間、は笑顔で拳を握り締めている。まさに一触即発。

「いやマジカンベンしてくれって!大島が強えーの知ってるからさ!俺ら大島にゃ勝てねーよ!な!」
啓吾の言葉に一護とは立ち上がり同時にケッと鼻で笑った。

「馬鹿言うな、そんなヒヨコより俺のが1000倍強えー。」
「王子は不細工には容赦しないぜ?不細工な顔を強制修正してやる。拳でな!鉄拳カリスマの腕を信じろ!!」
「一護ォ!!!!止めようとしてんのにいいい!!」


この二人の言葉に啓吾の努力は当然水の泡なワケでさすがに半泣きで啓吾も叫ぶ。


「やっぱりテメエらとは決着をつけなきゃなんねーようだな・・・丁度いい、今ここでハッキリと白黒つけてやるれ!!」


大島は怒鳴りながらメリケンサックを装着し凄む。
しかしそれに素直に反応したのは啓吾のみ。
一護と水色は無言で顔を顰める。大島の“やるれ”に脳内は占拠されている。
そしても。


「だーーーーーーーはっはっはっはっは!!“やるれ”!?“やるれ”ってなんだこのラクダ顔!!
脳に血が上手く巡ってねえんじゃねえの!?有り得ねえ!!あははははははははははははははははははははははは!!!」

大島を指差し腹を抱えて大笑い。

当然大島は顔を羞恥で真っ赤にした。


「テ、テメエ・・・!!」

大島は腕を振り上げる。
は涙が残る目でそれを見た。口は見事な弧を描く。
「オイオイ、王子に手を上げるなんて万死に値するぜ」

がそう言ったその時、大島の振り上げた拳を何者かが背後から掴み。



ブン!!



見事大島を長距離投げ飛ばした。+1もそれを追いかけ逃げてゆく。

「ほらな。成仏しなっせ」

は満足そうにそれを見届け、大島を投げた人物に目をやった。

「サーンキュ、チャド」
「・・・ム」

チャドは片手を上げ、それに簡潔に応えた。










「んで、何で怪我してんの」
差がありすぎる身長の違いには顔を思い切り上に向けてチャドに問う。
包帯が巻かれたチャドの額に手を伸ばすが、爪先立ちでも届かずは不愉快そうに眉を顰める。
それを見てチャドは伸ばされたの手に自分から額を持っていき、宥めるようにの頭を撫でた。

「・・・頭のは昨日・・・鉄骨が上から落ちてきて・・・」

「て、鉄骨!?」

ゆっくりと喋るチャドに一護、啓吾、水色の三人は同時に声を上げ、ルキアも目を見開く。
は頭に置かれたままのチャドの手を掴んで下ろし、再び遠ざかったチャドの顔(見える部分は顎であるが)を見上げた。
そしてチャドの背中に隠れたある気配に眉を微かに動かす。
小さく、舌打ちをした。

「手とかのは、さっきパン買いに出た時に・・・オートバイと正面衝突した」
「何してんだテメーは!?」
更に続けたチャドの言葉に一護は声を張り上げる。

チャドは重症だったバイクの運転手を病院に運んできた、と言いながら背中に背負っていた鳥籠を降ろし腰を下ろした。
籠の中に居たのは一羽のインコ。
は暫らくじっと真顔で見詰めた後、近付き屈みこんでにっこり笑う。

「俺焼き鳥好きだぜ」
!?」
「冗談、実は豚肉派」

ケラケラと笑っては立ち上がった。鳥籠に近付く一護、啓吾とすれ違うように離れる。



「嫌な匂いがする。気ィつけな」



一護とすれ違う瞬間は一護の耳にだけ届く音量で呟いた。
慌てて一護は足を止めを振り返るが、は背中を向けたまま軽く一度手を振っただけだった。

「コンニチワ!ボクノナマエハシバタユウイチ!オニイチャンノナマエハ?」
「おおー!凄ェ!!メチャメチャ達者に喋るなあコイツ!」

啓吾の大声に一護は慌てて顔をインコに向ける。
微かに漂う霊気に一護は眉間の皴を深くした。

「チャド、あのインコ何処で・・・」
一護の問いにチャドは米神に指を当て暫らく考えて。

「昨日・・・・貰った」
完全に重要な部分を省いて応えた。
啓吾がそれを悪い癖だと指摘し、チャドは省いてないと否定する。はコーヒー牛乳を飲みながらそれを眺めた。


インコに霊が入っていると気付いた一護はインコから視線を剥がせずにいた。
ルキアはぬるくなったいちごみるくを手に握ったままそれを見上げる。

「案ずるな。確かに入ってはいるが悪いものではない。寂しがっているだけの霊だろう。
ただこのままではいつ虚になるやも知れん。今夜あたり魂葬に向かった方が良かろう」

淡々と言うルキアに一護は視線を落とした。
「だけどよ、が」
そこで口を閉じる。
その不自然さにルキアが顔を再び上げれば一護の視線はへと流れていた。
が、どうした」
ルキアがそう問えば一護はハッとしたように視線をルキアへと戻す。
「いや、別に」


一護が見詰めた先にいたの顔は笑顔で一護に告げていた。






秘密だよ、と。












「またっスか。」
「ああ、まただ。今回は面倒省いてここに体置いていくんでヨロシク」


浦原商店の一室で、は体を残し魂魄の姿で立っていた。
闇夜に煌く斬魄刀を流れる動作で腰に差し、は傍に胡坐をかいて座り自分を見上げる浦原を見下ろした。

「不満そうだな」
「そりゃあそうデショウ」

隠す気もなく憮然と言い放つ浦原には苦笑いを零した。

「朽木サンも馬鹿じゃない。そう長く隠せるとも思いませんがね」
浦原はそう呟いて視線を降ろす。
は無言で、ただ一度斬魄刀の鞘を撫でた。

「それ以前にアナタは朽木さんすら見捨てることはできない」
確信めいた浦原の言葉にはゆっくりと笑う。

目に、いつもの光を湛えて。




「勿論。可愛い姫を見捨てて得る自由は自由じゃない。我侭さ・・・単なる、な」



の言葉に浦原は肩を竦め、そして諦めたように微笑んで“イッテラッシャイ”と言った。