ボクハココニイルヨ。
ボクハココニイルヨ。
ネエホンノスコシデイイカラ。
ホンノイッシュンデイイカラ。
ボクヲミテ。ボクヲダキシメテ。
ボクヲ。
スキダト、イッテ。
ピアニッシモ
「今日は学校?」
制服のボタンを留める僕に、マリエさんが言った。
「うん、平日だし」
「そうね」
柔らかい指先。温かい感触。
だけどナニカが決定的に違うと思う僕は、彼女を裏切っているのだろうか。
「ねえ、私の事愛してる?」
「大好きだよ」
好きという感情は知っている。だけど愛は、解からない。この二つに境界線があるのかさえ知らない。
「水色は狡いわね」
「ごめんなさい」
「謝らないで」
ならそんな顔をしないで欲しい。
そう思う僕は、きっと言われたとおり狡いんだろう。
「ごめんなさい」
今日は一護と学校に行く気分じゃなかった。
だから少し遠回りをしてみる。
遅刻しても、構わない。どうせそんなことを気にする人は僕には居ない。
これは自由なんだろうか。
それとも単純に、孤独なんだろうか。
「こーじーまー」
こんな気分の時には会いたくない人間がいて、それでもそういう時に限って会ってしまう。
声の主に視線を送り、小さく手を振った。
「おはよう、」
「おー。おはよー」
会いたくなかった。
「朝から元気だね」
「朝だからさ。」
屈託無く笑う彼には、今は会いたくなかった。
まるで自分が救いようも無く目に見えない何かに汚染されているように感じて。
衝動的に逃げ出したくなる。
「遅刻するよ、先に行って、いいから」
「んー・・・なあ、小島?相談なんだけどさあ」
「なに」
「俺今すっげーゲーセンな気分。付き合って」
「えー?やだよ」
「因みに拒否権はないし」
「ないの?」
「無いよ。」
「じゃあ、仕方ない・・・・のかな?」
「そうそう」
そんな馬鹿な話あるわけないけど、と内心零したのは秘密。
だって結局、に逆らったりできない。拒むなんてできっこない。
「小島に大きなヌイグルミを取ってやるからなッ☆」
楽しそうに言うに僕はわざとらしく息を吐いた。
「・・・僕の性別と年齢を考慮した上で言ってる?」
「ばあーか。俺だと思って抱いてろってことだろー」
「・・・・・」
天然なんだか、作為なんだか。とにかく魔性なのに変わりはないけど。
こうして何人の男女が叶わぬ想いに身を投じるんだろう。
僕自身、愛に愛を返せてやしないけど。
は暫らく何かを考えて、それから身体ごと僕に向き直った。
大きく笑って、何を思ったのか僕を抱き締めた。
「ちょ・・・・・・っと!!何!?」
「だってなんかそうして欲しそうだったじゃん?」
「・・・・っ!!」
「お、当たり?俺ってエスパーかもね」
そんな風に、力任せに、抱き締めないで欲しい。
そんな事された事無い。そんな風に、何を求めることもなく、強く抱き締められた事は無い。
「小島、俺に泣かされる前にちゃんと泣いとけよ・・・・次からは」
の台詞で、初めて僕は自分が泣いているのに気付いた。
見ればの制服が濡れている。
慌てて腕に力を込めてから距離をとった。
「およ?・・・・なんだよ」
「何って・・・・濡れるから」
僕は手の甲で涙を拭いながら言った。顔を背ける。
身体のどこかが壊れたかもしれないと思った。
涙が止まらない。
悲しい事なんてなかったのに。
「・・・・ばぁか」
は小さく笑って、少し乱暴に僕の腕を掴んだ。
そして真正面から僕を見据える。
泣いてる男の顔を凝視するなんて悪趣味だよ、と言おうとしたけれど。
「・・・・・・・・・・!!」
僕の頬を伝い、顎から滴りそうになった涙の粒をが舌で掬い取って。
僕の言葉は喉に詰まってしまった。
「・・・・しょっぱい」
「・・・・・・・」
ヘラリと笑うに僕は観念して、額をの肩に預けた。
どうせ、どうせ敵わないなら、この状況を堪能してやる。
今夜大きなヌイグルミを抱いて眠る自分が容易に想像できて、少し笑ってしまった。
ボクハココニイルヨ。
ボクハココニイルヨ。
ネエホンノスコシデイイカラ。
ホンノイッシュンデイイカラ。
ボクヲミテ。ボクヲダキシメテ。
ボクヲ。
スキダト、イッテ。
「好きだよ、」
「ああ、俺が小島を好きなんだから当然だな」
君の、声で。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同タイトルで松たか子の歌。
遠くで見詰めるあたしに、ねえ振り向いて
ひとこと 好きだよ、と そう言って
そんな純真培養したような想いが果たして魔性に通じるかにゃーどうかにゃー