恋かもしれない。

そう思った瞬間に蓋をしなければならない想いがある。




浅野啓吾、高校生。



恋多き猪突猛進の彼は、それを始めて思い知った。













                       パンドラの箱の












「啓吾ー。今日暇?遊んでー!」




廊下の端から逆端に向かって叫ぶの姿、そして声はかなり目立つ。
苦笑いしながら啓吾は頷いて手を振った。

嬉しそうに手を振り返し「じゃ、帰りなー」と去ってゆく
姿が見えなくなると啓吾は表情を少しだけ曇らせて腕を下ろした。


どうせなら気づきたくは無かったんだけどな。
友情はそれで素晴らしい。

けれど満足できなくなったら待つのは苦行の日々、だ。



油断すればすぐに、欲望と理想そして現実の喰い違いに身動きが取れなくなる。




「余裕?それとも悪足掻き?」


そういった方面に目聡い水色が啓吾の変化に気づかないはずも無く、隣に立って啓吾を意地悪く見上げた。
答えない啓吾に少しだけ同情したのか軽く肩を叩く。


「愚痴聞こうか?」

「・・・・・」


啓吾は不覚にも泣きそうになって、らしくもなく項垂れる。
アララ、限界なんだねと水色は笑ってその頭を撫でながら、
はやっぱり魔性だなあとしみじみ溜め息を吐いた。






場所を変え屋上に移った水色と啓吾は、フェンスに背中を預けて空を見上げた。
夏の空は突き抜ける、青。

二人は暫く無言でそれを見ていた。が、脳は同調したように同じ人物を思い浮かべる。
の色だ、と二人は同時に思った。

目が合った瞬間笑い出す。


「同じ事考えてたね、今」

「うん、だな」


青。浸透する色。きみのいろ。




「水色、俺さー」

「んー?」


啓吾は大きく伸びをして立ち上がり、深く息を吸う。


「もしかしたら好きかもしれないんだよなー、の事」

「うん」


「でもなー、なんつうか。気づきたくなかったんだよなー」

「・・・うん」

「そうかもしれないって、思った時からしんどいんだ。
 特別になりたいとかちょっとでも思う度にスゲー、なんか・・・キツい。」


は誰からも好かれ、誰にでも等しく優しい。

その優しさは尋常じゃなくて、だから錯覚して、
けれど現実は自分はやっぱり他の奴と同列で。

希望と葛藤と落胆の繰り返しだ。


「・・・」


僕も、と水色は心の中で呟いた。
に恋をするべきではないのだ。それは、本能で知る事実。

好きになってはならない。
気づいてはならない。

友情の、更に上を求めてはならない。

男だからとかそういう単純な理由ではなくもっと、もっと違う理由。
けれど具体的な言葉は何も当て嵌まらない。


「でも厄介なんだよな、友達の位置でいいから、ここは誰にも譲れないって思う。
 一緒に馬鹿やったり遊んだり、時々やっぱり辛いけど、でも譲れないんだよ・・・馬鹿みてえだけど」



俯いてしまった啓吾の頭を、水色は一度だけ軽く撫でた。
そしてもう一度空を見上げる。


「・・・啓吾、それは健気って言うんだよ」


「・・・へへ、やっぱり?」


「屋上、好きだよね啓吾。・・・近いから?」


「・・・」



啓吾は水色と同じようにまた空を仰いで、いつもとは違う大人びた表情で笑った。

そして呟く。


「・・・近付くから」


空に、青空に。
の色に。



そして今日もパンドラの箱の鍵を握り締めたまま捨てる事はできずに、痛みを。

想いを。


抱き続ける。















.................................................................................................................................................................................................

夢主のために葛藤したり思い悩むキャラが大好きです。