「お前ー、雛森に恋してるだろう!?」
「・・・・はあ?」
の一言に、日番谷は。
「最悪だ」
己の報われなさとの鈍感さに、心底疲弊した。
鳳蝶
蝉の声。
夏の暑い陽射し。
ああそれだけでも苛立つには十分だというのに。
「シロちゃん、元気ないね」
雛森の言葉に力なく応対して日番谷は空を仰いだ。
深く青く虚ろな空。
死神と死んだ者の魂が集うこの世界に突き抜ける青は存在しない。
それは似合わないといつも日番谷は思っていた。
にこの空は似合わない。
この世界は。
「・・・・その呼び方、変えないか。雛森」
「え・・・?どうして?」
「どうしてって・・・・」
に誤解されるからだ。
というか、されたからだ。
じゃなく、現在進行形。されているからだ。
他の誰にどう思われても良いし、実際そこらの連中よりもずっと雛森は大切な存在だけれど。
けれどはそういう次元の話ではなくて。
「あ・・・わかった。君だ」
雛森は少しだけ意地悪そうな笑みを浮かべて、日番谷の隣に座った。
「・・・フフ。君ね、私にシロちゃんの事、宜しく、だって」
「・・・・」
どうしてよりによって今そういう事を聞かされるんだ、と日番谷は俯いた。
ただでさえ弱っているのに。
それはつまり自分に望みはないということではないか。
「・・・・落ち込んじゃダメだよ、シロちゃん」
「・・・?」
「だってね、君ってばすごく落ち込んでたんだよ。
それで私にこう言ったの。」
雛森はの物真似をし始めた。
『いや、まあ恋愛事ってのは思い通りにいかないし個人の自由だし?
そこらへんは俺も割り切ってんだけどさ。まあムカつくには変わりねーけど。
でもなんつーか俺って本気になると盲目的って言うかさー。とーしろーが幸せなら良いから。
男とか女とか関係なくとーしろーを不幸にするなら容赦しないからそこらへんは肝に銘じてね』
一通り物真似が終わると雛森は笑った。
その物真似の下手さ加減には驚いたがそれはまあさておき。
「・・・だって。シロちゃん、大切にされてるんだね」
雛森の台詞に日番谷の顔は真っ赤になる。
「・・・・そう、いうの・・・は。俺にまず言うべきじゃないのか」
「シロちゃん。それこそ私じゃなくて君に言うべきだよ」
分かってる。
日番谷は頷くと立ち上がった。
それを見上げて雛森はもう一度笑う。
「ありがとな、雛森」
「どういたしまして」
小さく手を振る雛森を残して、日番谷は走り出した。
「あーあ。損な役割」
残された雛森の呟きは、夏の乾いた風に紛れ、掻き消され。
誰の耳にも届かず空気に溶けた。
虚ろな青の空を彩るように、一羽の鳳蝶が空を泳いでいる。