「くーろーさーきークン、あっそびっましょー」




「・・・・・フザケンナ」




6:お掃除遊び




空がやっと白み始めた日曜の早朝には黒崎家を訪れた。
しかも一護の部屋の窓から。
そしてベッドで寝ていた一護の上に飛び乗り大音量で上記のセリフを吐いたのだ。

一護の機嫌が急降下するのも当然というもの。


「とりあえず、降りろ」
「エー何で!冷たい!!」
「いいから降りろ!!!」


はブチブチと文句を言いながらベッドから降り、上半身を起こした一護の顔を覗きこんだ。
「おはヨ。遊ぼうぜ」

満面の笑顔で言うに一護は痛む頭を押さえて時計に目をやった。
午前五時。どうりで部屋の中もまだ暗い筈だ。


「なんでこんな朝っぱらから・・・」
脱力しながら一護が呟くとはさも当然、というように胸を張って・・・。


「俺が起きて遊びたいと思ったからに決まってんじゃん?」


などとのたまった。


一護は本格的に眩暈を起こし、再び枕に顔を埋めた。
夢だ。コレは夢に違いない。
繰り返し呟いているとそれは軽い催眠作用を起こし、一護を深い眠りへと誘った。












「!!?」

ガバ!!

再び一護が目覚めたのは昼近くだった。
軽く頭を振って記憶を呼び覚ます。

(マジで夢だったか・・・)

の姿は無い。
そもそも本当にであったなら、あんなに素直に自分を寝させるはずは無いと一護は考える。
夢だった。
少し残念に思う自分はまだどこか寝惚けているのか、と、一護は顔を洗う為に一階へ降りようと立ち上がる。

「!!」

そして固まった。
立ち上がった一護の両足首を、何者かが掴んだのだ。
ゆっくりと一護は下を向きそれを確認する。

白く、細い腕。

それはベッドの下から生えるように突き出ている。
ピキリと一護の額に筋が立った瞬間。



「アーーーーッハッハッハッハッハ!!驚いた?驚いたろ!?六時間も待った甲斐があったもんだぜー!!」


爆笑と共にがベッドの下から這いずり出てきた。
そのまま一護の両足の間を通り抜け、前に出て立ち上がる。
向かい合う形になって一護はの肩に手を置いた。



「この宇宙規模馬鹿がーーーーーーーーーー!!!!」

「いやーん、怒っちゃヤ!」

「殴る!!絶対ェ殴る!!!」




ドタバタドタバタドタバタ!!!!




「私はいつまでこうしておれば良いのだ・・・・」


部屋の中で追いかけっこする二人を襖の隙間から覗き見て、ルキアは呟いた。












「だからさ、寝ちゃった黒崎をどんな方法で起こしてやろうかと思案してたんだけどよ、寝顔が可愛いんだもんな、お前。
でー、しゃあないから起きるの待ってから嫌がらせをしようという結論に至ったわけだ。メデタシメデタシ」

「めでたくねえよ!!」


結局貴重な休日一日をに提供する羽目になった一護は、機嫌良く喋りながら歩くの少し後ろを歩いていた。

「で、何して遊ぶ気なんだよお前は。つーか、どこに向かってんだ?」
「俺んち」

「・・・・・・・・・・・・・・・・」

一護は足を止めて立ち尽くす。

「何だ?どうした黒崎?」
遅れてそれに気付いたは顔だけ振り向いて一護を見た。なんで固まっているんだ、と首を傾ける。
一護は一瞬飛んだ意識を引き戻しの顔を物凄い勢いで見返した。

、の、家!?」
「ああ?だからそう言ったろ」
「あんのかよ!!」
「・・・お前ね。俺みたいな美少年がアウトドアライフ送るわけないでしょ」

呆れたように言い放ち歩き始めたについて行きながら一護は唸る。
そもそも生活感が無いに家。
あるのが当然といえば当然だが、無いほうが余程納得がいく気がする。
想像も付かないが、が始めて招待してきたのだ。

(何かある・・・)

一護は内心警戒し、歩む足も重く感じていた。

「黒崎・・・ひとつだけ約束してくれ」
「何だよ・・・」


「襲わないでね☆」
「よし、殴らせろ」











着いたのは、それほど大きくはないが新築に近いワンルームのマンション。
一護はドアの鍵を開けるの背中を意味なく眺めていた。

「お前一人暮らしだよな」
「そりゃあ、死神に親はいねえって」

じゃあこの部屋の家賃はどうしているんだ、と一護は考えたが聞くのはやめた。
聞いたが最後、犯罪じみた返答をされそうで恐ろしい。

「入れよ黒崎、汚いけどさ」
「あ、ああ・・・」

開いたドアを押さえてに招かれるまま一護は其処に足を踏み入れた。



・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



絶句。



散乱した服、ゴミ、雑誌、その他。
積もり積もった埃、床は足の踏み場も無いほど物が散乱し、生活スペースとして使えるのはもはやベッドの上のみ。


「帰る」


勢いよく方向転換した一護をは後ろから羽交い絞めにした。


「逃がすか!!」
「何だ、“逃がすか”って!!テメエどういうつもりだ!!」
「勿論、部屋の掃除を手伝わせる為に連れて来たに決まってんだろ!!」
「冗談じゃねええええええええええ!!!」


大乱闘勃発。しかし一護に勝ち目があるはずもなく、一護の休日はこうしてに潰されることとなった。




「いや、助かるわ。最近埃で喉痛いし物は良くなくなるし困ってたんだよなあ。
あ、このエロ本いる?」
「いらねえよ!!」

楽しそうに散乱していた物を片付けるに一護は怒鳴り返す。

手には雑巾。
顔にはマスク。

しかし意外と似合ってるな、とは忍び笑いをした。
そして窓を拭こうと雑巾に粉末洗剤をふりかけるが。
「おい、窓ガラスをその洗剤で拭くな」
という一護の声に動きを止めた。


「えー、なんでだよ。」
は不満そうに一護を見るが、一護は床に視線を落としたまま言葉を続ける。
「傷がつくんだよ。・・・コレ使え」

そう言って一護は近くに纏めてあったスポーツ新聞を一部、に向かって投げた。
「なんだよ、新聞で拭くのか?汚れんじゃねえの逆に」
「いいから拭け。口じゃなく手を動かせ!!」
「ハイハイ・・・・おお、スゲエ!!綺麗になる!!面白えーーー!!」

はしゃぎながら窓を拭くに視線を向けて一護は盛大な溜め息をついた。

「なんで俺が・・・・」
「まあたまには良いじゃん、こんな休みの日も」
「お・ま・え・が・言・う・な・!!」






結局掃除は夕方までかかった。