どうして戦うの、と聞く奴がいる。
その度に俺は曖昧に笑って、こう答える。
じゃあ、君は、どうして戦わないのか、と。
思い出しただけでゾッとする過去の自分の姿。
正直に言えばもうウンザリなんだ。御免なんだ。
何もしない自分に泣くのは。
「来週、動物園行くんだってさ」
カーテンも無い部屋の窓枠に座ってが言った。
緑濃くなる町並みに視線を流す。
「・・・来週には未来号が届くのに、気楽な話だな」
笑いながら、台所に立って素麺を茹でていたはコンロの火を止めた。
蛇口をひねり水を出す。
ザバザバと素麺を洗った。
「なあ、俺思ったんだけど」
は手に持ったアイスの棒を口に運んだ。歯で咥えてブンブン揺らす。
は冷蔵庫の中から生姜とつゆを取り出した。みょうがも欲しかったんだがな、と小さく呟く。
安売りを逃したのだった。
「サボらないで参加しろ」
「あ、バレてやんの」
「当然だ馬鹿。」
ちぇー。
どこか愉快そうに笑っては窓の外を眺めたまま、言葉を続けた。
「俺はプールのがいいんだけどな」
ああ、確かに暑いしな。
は二膳の箸を用意して、腰に手を当て満足そうに今日の昼御飯を眺めた。
そして「ああそういえばは生姜じゃなく山葵だ」と思い出し、山葵を冷蔵庫から取り出す。
その途中、冷蔵庫の奥のほうにあったアルミ缶がの視界を掠めた。
「?」
取り出してみれば、それは。
「・・・・、十秒以内で五文字以下の言い訳を考えろ」
「はあ?」
「コレはどういうつもりだ?」
「・・・・・ゲ」
それは缶ビールだった。
たかが缶ビールされど缶ビール。
実際はどうあれ、今の二人は“未成年”。そして今やアルコール類はかなりの高額品。
砂糖までとはいかないが希少価値も高い。
「・・・うーん、いや、ええと。」
「3・・・・2・・・・・1・・・・・」
「坂上センセーに貰ったんだよ」
カウントダウンを開始していたに、は白状した。
その言葉には少しだけ目を見開く。
「・・・・坂上先生に?」
「そ。接触完了、俺達を青のOVERSだと思っている。
面白い話さ。常識は頼りないと知っていながら己の常識に囚われた判断で俺を見た。
それも好都合、おかげでちょっとした情報提供者とビールゲット。」
「・・・あの人は優しい人だ」
「知ってるよ。俺は結構これで好いてるけど」
「分かりにくい奴」
呆れたようなには笑って答えた。
「昼飯ができたぞ。」
「どーせまた素麺だろー。」
「文句言うな、現状が酷ければ酷いほど改善の余地ありだ。」
出された予想通りの素麺。つゆを箸で混ぜては確かに、と頷いた。
泣くのはやめる。ここからはそう、戦おう。
二人で誓ったあの決意を思い出す。
「動物園に行く時の弁当くらいは奮発しろよ」
「というかお前が作れ。たまには」
(どこかのだれかの未来のために 地に希望を 天に夢を取り戻そう)
(我らはそう、戦うために生まれてきた)
遥かなるマーチと共に。
とは、ある人物に貰った青い宝石の指輪を取り出した。
そして多目的結晶を覗く。
そこにいる、名もない、けれど夢見るプログラム。
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
−this Omnipotent Vicarious Enlist a Recruit Silent System−
それは 全能の 代理 を徴募せし 物言わぬ 機構
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
わたしにはまだ名前がない。
わたしにはここがどこかわからない。
あなたがだれか、入力もない。
それでもわたしに意味があるというのならば、私は思う。この悲しい魂に、私の手が差し伸べることが出来ればと。
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
このプログラムは世界の尊厳を守る最後の剣として世界の総意により建造された。
OVERS・System Ver0.89
OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS・OVERS
私にはまだ名前がない。
私はまだ生まれていない。
私はなぜここにいるか分からない。
だから、でも、しかし。 私は思う。 私に心がある意味を。
私に選択肢があるというのならば、私は悲しみを終らせることを選択する。
それが私の選択である。
「そして俺達の選択」
の言葉には頷いて
「この素麺不味い」と呟いた。
「ギイイイイイイイイイイイイイイイヤアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
動物園への遠足を三日後に控えたある日の午後。
二組教室にの悲鳴が響いた。