君と君のガンパレード







が目を覚ますのは毎朝六時半。
アラームが鳴る寸前に目蓋を開き、アラームをリセット。

最近やっと購入したカーテンの隙間から漏れ入る朝日を確認して起き上がると、
窓に近付き思い切りカーテンを開けて日の光を部屋の中に入れた。

「・・・うー・・・眩し・・・い・・・」

珍しく帰ってきていたが寝た後で帰ってきたらしい)がそう唸って布団を深くかぶりなおすのを横目で眺め
は深呼吸をした。

「おはよう、世界」
と、呟く。

布団をたたんで部屋の隅に寄せ、制服に着替えてから窓を開けると
朝特有の澄んだ冷たい空気が部屋の中に流れを生み出した。
そうするとが再び布団の中で蠢き「寒い・・・」と唸る。

「起きろ。朝だ」
「・・・・・あと二時間」
「馬鹿を言うな。」

は憤然としてが眠る布団に大股で歩み寄り、掛け布団に手を掛ける。
そして。
「子供じゃあるまいし言われずとも起きろ!!」
思い切り良く布団をぴっペがした。




ブツブツ文句を言うを無視しては朝食の用意に取り掛かった。
いつもは簡単なものしか作らないが、滅多に居ない同居人がいる時は少しだけ気合が入る。
自分じゃない誰かに食べさせるのだから、と。

小さなテーブルに並べられたのは、玉子焼きと焼き魚に味噌汁と白飯。
二人向かい合って座り、手を合わせ「頂きます」と言ってから食事が始まる。
そういうところに律儀なのは二人とも共通していた。

「・・・・・・・・・さ、寒い」
「風邪を引いて当たり前だ、なんでお前はいつもいつもパンツ一枚で寝るんだ」

味噌汁を啜りながらが漏らすが、は呆れた声を返すだけだった。

「制服脱ぐだけマシだろ・・・あーマジ風邪だ。休む」
「休んでもどうせハンガーに篭るんだ。大人しく授業に出ろ。マスクをつけろ、誰にもうつすな」
「うわ、ヒッデー!断固抗議!」
「・・・瀬戸口か岩田に言って詰め所に拉致監禁してもらうか」
「・・・・・・・・・・」

拗ねたように顔を逸らす
はくっくっく、と笑って箸を置いた。
「どうしても辛くなったら、一組に来い。俺が看病する」
げえーそれって俺逃げ道ねえし、とのたまうを無視して。

さあ、登校である。





「おはようバンビちゃん」
「おはよう、まーちゃん、ぶろーちゃん」
最近登校途中で出くわすのは、瀬戸口とののみの父子カップル。
は瀬戸口の軽口を完全無視してののみの前でしゃがんだ。
「おはようののちゃん。」
「えへへーおはようなの!」
キラキラと純粋培養した光が二人を取り巻くのを、はげんなりしながら眺めた。
その横顔を眺める瀬戸口。

「おはようさん」
「・・・・朝っぱらからお前の顔見るとスゲエ腹立つ」
「お前さんね」
顔なんて見てないでしょ、と視線を向けないに呟きながら瀬戸口は不意に真顔になった。
「具合でも悪いのか」
「うわ、触るなよ!」
額に向かって伸ばされた瀬戸口の手を払い除け、は数歩離れる。
まるで野良猫だねと瀬戸口は溜め息を吐いた。

、俺先に行く」

「ちゃんと授業には出る・・・」

ゲホ、と咳をして、マスクを取り出しつけて歩いていく
その背中を三人は眺め、立ち上がったに瀬戸口が呟く。
「あれは休ませた方が良かったんじゃないのか」
はののみの頭を撫でながら首を横に振った。

「アイツが家で大人しくするはずが無いだろう。どうせ仕事して悪化させるのがオチだ。
 だったら見張る目がある方が良い。あいつのあの状況を見れば整備班もをハンガーには近づけさせないだろう」
「ふええ、でも、つらそうだったのよ」
「お前さんも休んで看病すればいいだろうに」
「馬鹿を言うな。俺は人の命の前衛だ」
「冷たいな」
「そうか?」

は美しく微笑んでののみの頭を撫でた。

「そうかもしれない。だがはそう思わない。だから俺達は二人でここに来たんだ」







「狩谷、は?」
「整備班班長命令でハンガー出入り禁止だ。さっきまで外で誰かと揉めていたが」
放課後ハンガーに出向いたは、「ああやっぱり」と原の判断の正しさに感謝した。
帰宅命令を出さないあたりが特に正しい。
「僕知ってるー。あんまりギャーギャー騒ぐから来須先輩が担いでどっか連れてったんだー」
ひょい、と顔を出した新井木がそう言うと、は心底愉快そうに笑った。ナイス、来須!とか心の中で思う。
その光景は簡単に想像できた。

無言無表情で、まるで荷物をそうするようにを抱えて歩く来須と、
子供のように暴れ叫んだ挙句力尽きてなすがままになる

ああ見たかったなとは心底思った。