There is no end.
誉真は手にしていた工具を静かに床に置いて深く息を吐いた。
日頃口どころか動作まで乱暴な男だか、仕事に関して言えば他の誰よりも全てを繊細にこなし、そして妥協を許さない。
それは当然仕事道具である一本のドライバーにまで行き渡り、武士が己の武器を手入れするようには工具を手入れする。
そこに愛があった。分かりにくい男の分かりにくい愛が、あった。
誰に気づかれる事も望まず、ただ、空気に溶けてゆくように存在する。
床に胡座をかいた体勢のまま首に巻いたタオルで額の汗を拭った。
オイルの匂いと汗の臭いが染み付いていては無言で顔を歪める。
そういえば三日ほど家に帰ってないし授業出てないし、ああだから、ほぼハンガーに篭っていて、つまり。
三日ほど、風呂にも、入っていない。
「お前さん、なんか臭うぞ」
「またお前か」
背後に現れた気配と、同時にかけられた言葉に。
は振り返りもせず嫌そうな顔をして返した。
肩を竦めるのは瀬戸口だった。
「もうそろそろ昼休みだぞ、いいのか?」
「・・・・」
「がいい加減乗り込んできそうな勢いだったがな。仏の顔も三日まで、だそうだ。」
「・・・・・・・・・」
「ついでに、加担しそうなのが数人」
「・・・・順調に手懐けやがって」
の言葉に瀬戸口はやれやれと再び肩を竦めた。
実際好かれているのはお前さんも同じじゃないか、と言おうとしてやめる。
知っていてそれを認めたくなくて言ってるのだと思ったからだった。
は少し何かを考えて立ち上がった。
「お。観念したか。」
愉快そうに笑う瀬戸口を睨んで、は舌打ちをして首に巻いていたタオルを投げつけた。瀬戸口の顔面にヒットする。
10秒固まった後タオルを顔から剥ぎ取ると、瀬戸口の顔は青褪めていた。
「・・・く、臭い」
「ふん」
「・・・お前さん、とりあえずシャワー浴びろ。汗とオイルで悲惨な匂いだぞ」
「面倒臭ぇ」
「頭も体もちゃんと洗いなさい」
「・・・・・・・」
「俺が洗って差し上げようか。両手足縛って。」
は無言で腰に手を回し拳銃を取り出した。
安全装置を親指で外す。ガチャリ。
しかし構えた時には、瀬戸口の姿は無かった。
呆れたように目を細める。
「・・・チ。逃げ足だけは立派・・・・に・・・・・」
しかし、瀬戸口がいた場所に別の人物がいる事に気づくと今度はの顔が青褪めた。
数歩下がって、「あわわ」と慄く。
そこに居たのは、若宮と来須を従えたで。
「両手足縛って、さるぐつわ。」
指をパチリと鳴らしたの言葉を合図に大男二人がににじり寄る。
「・・・・・大人しくしろ」
「すまんな!」
「おおおおおおおお前ら、なん、なんで・・・・まだ授業中・・・・!」
の完全に怯えた声にが腹の底から微笑む。
「気付かなかったのか?お前の多目的結晶に瀬戸口が少し細工したのを」
「・・・・・・・・・・・・・あの、やろう・・・・!!」
若宮の手にはロープ。来須の手には大きめのハンカチ。
やばい本気だこいつら、とは思った。
というか、仏の顔も三日過ぎた瞬間夜叉って極端だろ、とかも思ったが。
最早何もかもが手遅れである。
「確保!!」
口をパクパクしながら呻くに最後の審判は振り下ろされた。
数分後。
はシャワーを浴びてスッキリしたが、なぜか使用済みの靴下が行方不明になっていた。
なんだァ?と、。
明らかに不愉快そうな顔でその話を聞いた瀬戸口は、珍しく無言で背を向けて歩き去った。
ここから先は瀬戸口とソックスハンターの大決戦である。