蒸し暑い季節の夕方の雨。
激しい雨音の中に轟く空の音。
大地を揺らがす雷の響き。
神楽は蒸し暑い中、に抱きしめられながら
今日は銀ちゃんも新八も居なくて良かったアル、と。
溜め息を吐いた。
Sound of heaven that rings sweetly
十五分前、万事屋。
「空気が湿ってきたな。雨が降る」
は窓の外から空を見て眉を顰め、干していた洗濯物を取り込もうとベランダへ向かった。
その途中で「なぜ集金で立ち寄っただけの俺がこんな事を」と思ったが
銀時も新八も外出していて不在、まさか神楽だけさせるわけにもいかない。
男二人と女の子一人の洗濯物はこれで結構量も重さもある。
「神楽、手伝ってくれるか?」
「勿論ネ!」
笑顔で言って後ろをついてくる神楽には微笑み
ベランダに出た。
微かに降ってきた雨に、続いて出ようとする神楽を制止する。
「降ってきたからそこまで。洗濯物投げるから、受け取って」
「濡れても気にしないアルよ?」
「俺が気にする。」
タオルを一枚放り投げては笑った。
その表情と、慣れない女の子待遇に神楽は頬を染める。
投げられる洗濯物を受け取りながら
徐々に濡れ、色気を纏うを眺めて神楽は銀時の日頃の気苦労を思い出した。
「・・・は、女殺しで男殺しネ」
幸か不幸か、その神楽の声は急激に激しさを増した雨音で遮られた。
家の中に戻り、着物の裾を絞りながらは神楽を見た。
前髪から滴る雫が艶やかで、肌に張り付いた着物が扇情的で。
きっとこの場に銀時が居れば完全に自制を失うだろう。
「濡れなかったか、神楽」
「はずぶ濡れヨ」
神楽は乾いたタオルを棚から出して差し出す。
ありがとう、とまたは笑った。
乱暴に髪を拭いたは、タオルを頭に被せたまま窓の外を見上げた。
黒い雲が空を覆い、低く唸っている。
「・・・・・」
「?」
唐突に曇ったの表情に神楽は眉を顰めた。
その瞬間、ピカッと、閃光が奔る。
「・・・・ッツ!!」
ビクリと大きくの肩が震えた。
掌はきつく握り締められ、目は真っ直ぐに空を見据えている。
まさか、と神楽は思った。
まさかは。
「、もしかして」
神楽がそう言ったその途中で、遅ればせながら地響きの如く轟音が鳴った。
「・・・・、・・・・・!!」
神楽の視界は何かに遮られ、身体は温かく、しかし力強く包まれる。
「怖い、アルか」
「・・・・わ、悪い・・・・こればっかりは・・・・・!」
いい大人が、しかも男が。
少女にしがみついて震える様はなんとも情けない。
しかし神楽は微笑んで可愛い男も悪くないネ、と内心思った。
銀ちゃんが居なくて、良かった。
神楽は再びそう思う。
きっと銀時が居れば、は無条件に銀時に抱きつくだろうし
もし仮にそうでなくても、銀時は誰よりも早くを抱きしめるだろう。
「初恋は叶わない・・・本当かもしれないネ」
自分を抱きしめる男の腕に酔いながら
神楽は目蓋を閉じた。
甘い甘い天の轟き。
少女の儚い恋を憂うように暫くの間それは鳴り続けた。