「おはようさん、。・・・・・・お、美味そうやなー。」
「つまみ食いはするなよ。お前のは別にとってある」
「なんや、今日は出掛けるん?」
「ああ、花見に」
ああ、あの万事屋の連中とか、とは小さく笑ってを背後から眺めた。
律儀にエプロンを身につけ本を片手に弁当を作るその姿は微笑ましい。
「・・・少し勿体無いけどしゃあないな。」
が幸せならそれでいい。
その幸せを命を懸けて護るだけだ。
はそう内心で呟き、不思議そうにを見るに笑顔を返した。
桜舞い散る広場で、は大きめの重箱を抱え周囲を見回した。
場所取りは銀時がしているはずだ。
しかし、とは重箱を見下ろして照れるように笑った。
メンバーは自分と、銀時と、新八と、神楽。そして新八の姉の妙の五人。
にもかかわらずが作った弁当の量は軽く10人前を超えている。
「・・・・・浮かれている、つもりは無いんだがな」
しかし現にこの弁当の巨大さがそれを物語っていた。
自嘲してもう一度周囲を見渡すが、待っているはずの連中の姿は見えない。
「・・・・・・・・・・」
考えてみれば、待ち合わせ場所くらいは決めておくべきだったな、とは溜め息を吐いた。
周囲からは楽しそうな声が響き一瞬の寂しさを感じる。
寂しさを感じるのは、自分が今孤独ではないからだ。
そう思うと自然と頬が緩む。
こんな幸せは無い。
「あ、いたいた。銀さん待ちくたびれちゃったよ」
背後から聞こえた銀時の声にはコッソリと甘く微笑んだ。
エピソード11 桜舞い散る
はどうしようかと考えていた。
大きな重箱を背後に隠し、妙の差し出した一段だけの重箱を見詰める。
のその様子を横目で盗み見て、銀時はふ、と笑った。
そして耳打ちする。
「隠しとけ。お前の手作りは俺専用」
ビクリと肩を震わせ、は素早く銀時を睨んだ。耳が微かに赤い。
それを見て銀時はにやりと笑って、他の誰からも見えない位置での手に指先で触れた。
「妬いちゃうから、お願い」
銀時にとって紛れも無い本心を吐露すると、は目を逸らし少し俯いた。
「・・・・莫大な量だぞ。一人で食えるか」
「愛の前には胃も驚異的な進化を遂げるのさ」
甘い言葉に目が眩む。
は目蓋を閉じて、噛み締めながら考えた。
もしかしたら、自分はとっくにこの糖分の塊のような男に攫われているかもしれない、と。
重ねられた指先をそのままに、は小さく頷いた。
そのの動作に驚いたのは他ならない銀時その人だった。
内心激しく動揺しながら、表面上は平静を装ってから視線を剥がす。
(うわ、何?何ナノコレ?ドッキリ?!)
突如差し出された幸せに脳が上手く順応しない。
今まで長い間、報われない想いに身を投じてきたのだから仕方の無い事だった。
ほんの少し前までは、素っ気無い(寧ろ残酷とも言える)態度に何度も泣かされていたのに。
しかし人間というのは強欲だ。銀時はしみじみそう思う。
この状況でも、“もっと”と思う。例えば銀時が居なければ死んでしまうというほどにを縛りたいと願う。
それは、故人に対する嫉妬も含まれていた。
存分にを縛り続けている見た事も無い人物に苛立ちは積もるばかり。
不毛だと銀時自身知っている。
しかしその故人を最終的には越えなければならないのだから、今の状況で満足もしていられない。
(日々精進。上等じゃん?俺ぁこうと決めたら譲らないよ)
銀時は、彼らしい緩やかな笑みを湛えて想いに耽っていた。
だからだろうか。
「さすがさん。味付けも最高ですぜィ」
この声が響くまで、その気配にすら気付かなかった。
「おま、お前何してんのちょっとオオオオオオオオオオオ!!!!??」
銀時の叫び声に周囲の視線が一気に集まる。
銀時との背後に居たのは、どこから出てきたのか総悟だった。
しかも手にはの手作り弁当。
しかもしかも、開いている。オカズも、減っている。
総悟はニンマリと笑って更に鮮やかな焼き色のついた玉子焼きを摘み上げた。
銀時は顔面蒼白で慌てる。恥も外聞も無い。
「タンマタンマタンマ!!シャレになんないからソレ!!
いやもう本気で泣くから!!待ってコレ悪夢!?悪夢なの!!?」
「落ち着け銀時。」
さすがにも銀時の様子に引きながら止めに入るが、銀時は止まらない。
興奮絶頂、目に薄っすらと涙さえ溜めている。
「おおおお落ち着けるかあ!!悪魔、悪魔がいるーーーー!!テメ、珠玉の玉子焼きに触るんじゃねえ!!」
「独り占めは恋のハムラビ法典曰く極刑ですぜ、ダンナ。」
ぱくり。
玉子焼きが総悟の口の中に消えた。
「〜〜〜〜ッツ!!!」
銀時は口をパクパクさせて、項垂れる。そして次の瞬間ギッと総悟を睨み上げた。
「吐け!!今すぐ吐き出せ!!喉の奥に手ぇ突っ込んで掻き出すぞ!!」
「おやあ?俺の唾液と胃液まみれでも構わないんですかィ?」
「愛さえあればノー・プラモデル!!」
「プロブレムだ馬鹿者。因みに愛があってもそれは御免だ」
叫ぶ銀時の後頭部に軽い一発をお見舞いしては呆れたように呟き立ち上がる。
そして総悟から重箱を奪い取り蓋をした。
「さんのせいですぜ。俺だって手作り弁当食べてぇや」
「だったら盗み食いじゃなく直談判しろ。・・・明日、茶請け代わりに作ってやるよ」
「そりゃあイイや」
くつくつと笑って、総悟は口の中から玉子焼きを取り出した。
型崩れも無く原型そのままのソレを、無造作に指ごとの口の中に突っ込む。
「愛さえあれば、でしょう?」
ニッコリと微笑む総悟には眉を顰め一度だけの咀嚼をして飲み込む。
「あればな」
その光景に固まったのは銀時だけではなかった。
妙な金縛りからいち早く開放された神楽が総悟に詰め寄る。
「何セクハラぶっかましてるネ!!」
「ガキにはまだ早い話でさあ」
のらりくらりとかわす総悟の背後に、鬼が現れた。
「じゃあ俺とじっくり話そうじゃあねえか、総悟」
瞳孔の開ききったトシの出現に銀時は青筋を立てる。
(厄介な面子が揃ったな)
痛む頭を押さえて、は桜の花びらを見上げた。
さあ、桜舞い散るこの季節、恋という名目の元に愚かな争奪戦が勃発した。
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銀魂久々の馬鹿な展開。
さあどうなることやらー。