「そこを退け。そこは毎年真撰組が花見をする際に使う特別席だ。」
トシは眼光鋭く、寝そべる銀時を見下ろして言い放つ。
その背後には猛者揃いの真撰組一同。
トシの隣に近藤が並び、腕を組んだ。頬が腫れているのは例の如く妙に殴られたようだ。
「こちらも毎年恒例の行事なんでおいそれと変更できん。お妙さんだけ残して去ってもらおうか」
鼻血も出ているのに平然としている近藤を見上げて、はさすが局長の器だ、と呑気に思う。かなり的外れだ。
そんなを盗み見て、トシは少しだけ頬を染めコホンと咳払いを一つ。
「いや、お妙さんはいいからだけ残して去ってもらおーか」
トシの背後で総悟が“うんうん”と頷く。
「いやお妙さんはダメだってば」
食い下がる近藤にトシと総悟は声を合わせて「五月蝿ェよゴリラ」と暴言を吐いた。
トシの言葉に、一気に銀時の顔色が物騒になったのは言うまでもない。
は重箱を綺麗に包み直しながら大きく息を吐いた。
どうやら今日は騒がしい一日になりそうだ。
つい先ほど感じたほんの少しの寂しさは、まるで幻のようだな、と。
は柔らかく微笑む。その表情は以前のであれば考えられないような表情。
トシと総悟は一瞬でそのの変化を察知した。そして銀時に心底嫉妬する。
変化のその切っ掛けが銀時であるのは明白で、だからこそ気に喰わない。
こうなればどんな小さな事でも邪魔して嫌がらせをして妨害しなければ!
トシと総悟は刹那だけ視線を繋げ、そして頷く。
一時休戦、共同戦線。敵は目前。敵前逃亡は男の恥だ。
そしてそれを受けて立たぬも男の恥。
銀時は立ち上がった。
エピソード12 愛に戦う男達
「何勝手ぬかしてんだぁ?幕臣だかなんだかしらねえがなー」
銀時に促されるように神楽と妙も立ち上がり、新八も不本意ながらそれに付き合う。
「俺たちを退かしてーなら宇宙戦艦でも持って来いよ」
銀時は不敵に笑ってに目配せをした。背後に回れ、と。
「・・・・何故だ」
「そりゃお前がお姫様だからさ。」
「俺は男だ」
「・・・・傍に居てよ」
守らせてよ。
言葉ではなく表情で伝わる想い。
は無表情のまま顔を真っ赤にして、固まる。そして内心かなり焦った。
ここ最近、急激に銀時は甘くなった気がする。言葉も動作も、全てが。
試すようなやり方ではなく、露骨に好意を伝える。
それは以前の比ではないほどに容赦ない。
(それは当然だ。銀時も馬鹿ではないし大人の男。経験もある。
が自分に対し悪くない感情を少なからず持っていると自覚したからには容赦する気もその必要も無いと考えた結果だった。)
もしかしたら自分が気付かなかっただけで初めから銀時はそうだったのかもしれないとは思い、顔を伏せた。
自分が変わったのか、銀時が変わったのか。或いは両方か。
どちらにしろこの雰囲気はには慣れないもので対処に困る。
幼い頃から忍として生きたは色恋沙汰には免疫が無い。
しかも、愛することはあっても愛されていると自覚したのは初めてで。
頬の紅潮は消えない。
勿論トシと総悟はその様子に腹を立てる。面白くない。
銀時が報われつつあるのも、それに比べて自分達の想いがまだ届かないのも。
選ぶのはだが、その選択肢にすら加わってないうちに勝負がつくのは納得いかない。
それがトシと総悟の純粋な考えだった。
トシは腰に差した愛刀に手を伸ばし、親指を柄に掛けた。ぐ、と少しだけ引き抜く。
咥えた煙草の先から揺らぐ紫煙。
「結局てめーとはこうなる運命だ。」
「そう、その通り。俺が俺で、お前がお前で、そしてが居る以上は」
「おい、お前等・・・・」
一触即発の二人をが止めようとしたその時、の肩に手が置かれた。
振り返ればそこには満面の笑みの総悟が立っている。
「止めても無駄ですぜィ、サン。これぁ男の意地と愛を懸けた戦いでさぁ」
「何の話だ?」
「・・・・罪な人だィ」
疑問符を浮かべるに総悟は困ったように笑った。そしての白磁の頬に唇をそっと寄せる。
銀時とトシは気付かない。
ほんの少し唇は肌を掠め、離れた。が眉を顰め総悟を睨む。
どういうつもりだ、と。
そのの表情に総悟はニタリと笑って。
「前金でさぁ。」
しゃあしゃあと言ってのけた。
そして。
「待ちなせェ!!」
ザッ、と、総悟は未だ牽制しあったまま動かない銀時とトシの二人に歩み寄る。
二人の視線が同時に総悟に移った。
「堅気の皆さんがまったりこいてる場でチャンバラたぁいただけねーや。
ここはひとつ花見らしく決着つけましょーや」
そこまで言って総悟はどこからか調達してきた工事現場用ヘルメットをかぶり、ピコピコハンマーを握る。
皆の視線が集中した。
「第一回陣地(+)争奪・・・・
叩いてかぶってジャンケンポン大会いいいいいいいいいいいいいいいい!!」
花見はもはや微塵も関係していない。
春の桜吹雪が舞い散る中で、ここに愛に狂う男達の戦いが幕を開ける。