「以上、解散!」
「押忍!!」
親衛隊に指示を出し終えた彗は、小さく溜め息を吐いて背後を振り返った。
そこにはが遠く何処かを見詰める目で、静かに座っている。
「・・・なんや」
「お聞きしたい事が」
何もかもが、本当にさんの為なんだなと彗は思ったがそれは口には出さなかった。
にとって自身の持つ全てはの為に在るもので、そこに疑いや戸惑いは無い。
例えば、そう。の傍に立つ彗すらも。
「さんが幸せだと確信したその時、どうするんですか。
・・・アンタの考え方だと、アンタの必要性が無くなるでしょう」
彗の問いには緩く微笑むだけで答えない。
彗は眉を顰めた。
「アンタは満足して、消えて。それでその先は?残された連中はどうなるんです。
今、アンタは大勢の人生を抱えているんだぞ」
卑怯な言い方だと彗は自覚している。
それでも、どんな手段でも引き止めたいと思った。
けれど。
「何の為に彗がおるん。
・・・全てはめでたしめでたし。は幸せになって、俺は消える。相応しい結末やろ」
冗談じゃない。彗はから視線を逸らし舌打ちをした。
どうしてこの人はこうなんだ。
どうしてどこまでも自分勝手なんだ。
「俺はアンタの便利な道具じゃない」
「・・・わかっとるよ。せやから時々、煩わしいわ」
の言葉は優しさだと知りつつも、それでも勝手だ、と。
心の中で呟いて彗は背を向けた。
エピソード16 ストラテジー・フロンティア
「・・・・・・・グハ!!」
「失礼な、そんなに似合わない事は無いだろう」
銀時は鼻血を出して倒れ、それをは苦々しい表情で見下ろした。
薄藤の浴衣姿。それに映える赤の髪。
結局言葉の飾りを全て捨ててしまえば、出てくる単語は「綺麗」の一言でしかない光景だった。
失血死も本望、と鼻を押さえる銀時。
夜空の下でも浮き立つの姿に、銀時は昔聴いた童謡を思い出しながら立ち上がった。
「暗い夜道も君は光り輝く千年のすばる・・・ってか」
「・・・?」
「いや、単に思い出しただけ」
クスクスと笑って銀時は歩き出し、もそれを追った。
いつもよりゆっくりと歩きながら、銀時は自分も唄を作れれば良かったのになんて考える。
あいのうたを。
人を好きになると色んなものが欲しくなるなあと頭を掻いて苦笑いを零した。
ふと横を見れば、目を輝かせて夜店を眺めるの横顔。
可愛い、と銀時の目尻が下がる。
「それにしても、実はチャン・・・はしゃいでる?」
「なんでだ」
「祭り初めてってわけでもないだろーし・・・あ、もしかして俺が一緒だからとか?」
「・・・ま、まあ、そうだな」
「・・・・・え?」
信じられない、といった風に銀時は聞き返したがは何も言わない。
聞き違いかと銀時が息を吐いたその時、視界に入ったのは。
「・・・・・、・・・!」
背けてるの顔が暗がりでも分かるほどに耳まで真っ赤になっていたのだ。
それに気づいた瞬間、銀時の頬も赤くなる。
何も言わない銀時をは物凄い目つきで睨んだ。
「な、なんだ!素直じゃないとかいつも五月蝿いから言ったんだ!文句あるか!?」
「・・・い、いや、そうじゃなくって、・・・あはは」
遠目に眺めていた新八は「何やってんだ、あの二人」と訝しむ。
男二人が立ち止まって真っ赤になって見詰め合っているのだ。不審にも程があった。
「・・・あー、じゃ、なくて。」
「・・・」
「その、いい加減よォ・・・ちゃんと・・・・」
「・・・・」
「なんつーの?・・・えーと・・・」
の視線と沈黙に汗を流す銀時。
純粋にその先を言葉にするのが怖くなり、喉がいやに乾いている事に気づいた。
まるでガキだな、と情けなくなる。
ガクンと項垂れた銀時は苦し紛れに呟いた。
「・・・・りんご飴、食う?」
「・・・ああ」
買ってきます、とに背を向けて。
「この根性無し・・・・」
銀時は自分に呪いをかけたいと、一瞬本気でそう思った。
なかなか戻ってこない銀時に多少苛つきながらは空を見上げた。
周囲が明るいせいか遠く感じる暗闇を仰ぐ。
その姿を遠くの片隅で眺める男が居た。
「あれは」
絶好の獲物を見つけた肉食獣のように口元を歪ませ、その男、高杉は足を踏みしめる。
しかし突如背後に生まれた気配に、動きは奪われた。
「ハイ、そこまで」
は咥えていた焼き鳥の串を、背後から高杉の左鎖骨に押し当てた。
「左鎖骨からまっすぐ深さ20センチ。心臓に到達や。
この意味分かるな?」
世間話でもするような口調に高杉はクツクツと笑う。
「堕ちたモンだな、テメエが紅天子のお守りなんぞやるとは」
「阿呆、昇格や。あんな美人さんそう居らんで」
ドンと、花火が鳴る。
「アイツに関わるんは赦さんよ。そうなる前に死んでもらうわ。
・・・どないする?後はお前の勝手や。将軍も何も俺にはどうでもええ」
「・・・・テメエは」
「問題なんはアイツの幸せ。それだけや」
ドンドンドン。
腸に響く音を聞きながら高杉はニヤリと笑った。
「昔の恋人に対して随分だな、テメエは」
「お前さんの妄想は果てしないなあ。誰が何時恋人やったっちゅーの」
「まあ、いいだろう。元より目的は祭りさ」
その言葉に満足げに頷いては串を再び咥える。
の腰を高杉は卑猥な手つきで抱き寄せた。
「・・・・ちょおー、何?」
「本祭りまでの暇潰しに付き合えよ」
「俺がお相手しましょう」
スラリと、真剣の刃が高杉の頬を撫ぜた。
視線で辿ればそこには笑顔全開の彗が立っている。
「相変わらずですね高杉さん」
「・・・犬か。まだ付きまとってやがったとはなァ」
惜しむ様子も無くから離れる高杉を睨んだまま彗はに声を掛けた。
「確保しますか」
は少し考えて首を振った。
「交渉成立しとるし、ええよ。俺が張るし」
いざとなれば背後から殺せる位置で。
の意図を悟った彗は顔色を変えてに寄った。
「俺が!」
「人殺しはアカンよ、彗。」
「・・・・っ」
困ったように笑うを抱きしめようと腕を伸ばし、けれど出来ない。
彗はに小さく頭を下げて闇に消えた。
未だと合流しない銀時の傍に近づく高杉の、その背後では。
いつか来る自分の最期を、夢見るように思い描いていた。
.....................................................................................................................................................................
のでしゃばりは次くらいで終わります。多分。