時間は少しだけ戻る。
「あ、さん」
「新八と神楽か・・・銀時を見なかったか?」
自分で買ったりんご飴片手に、なかなか戻ってこない銀時に痺れを切らしたは
人ごみの中を誰にもぶつかることなく新八、神楽と合流を果たした。
エピソード17 信念を討つ光
「人が多いな。・・・祭りというのはいつもこうなのか」
「そうですね・・・・って、ええ?さんは祭り・・・初めてですか?」
驚いて振り返る新八にムッとして、は拗ねたような表情で新八を睨んだ。
焦る新八。
えええ!?さんってこんなに可愛かったっけ!?と汗を噴出す。
動揺絶頂の新八を冷たく横目で眺めて、神楽は焼きとうもろこしに齧り付いた。
「銀ちゃんも子供じゃないネ、すぐに戻ってくるアル」
神楽の言葉に、は内心銀時は普通の子供よりも手が掛かるぞと思ったが口には出さなかった。
銀時の威信を守るためにというよりは、ここで自分がそれを否定してはあんまりだろうと。
そしてふと思う。
自分はいつからこんな些細なことでも銀時を思うようになったのだろう。
心臓の中のもっと奥の、大事な中枢を侵食されてゆく、甘く、それでいて少しだけ恐怖する感覚。
塗り替えられてゆくナニカ。
「・・・ん、さん?」
思いに耽っていたところを新八の声で呼び戻され、はまた少しだけ顔を赤くした。
なんだかとことん銀時に振り回されてるみたいで癪だな、とムッとする。
余裕綽々で愛を囁き、文字通り体当たりしてくる銀時相手にこれでは分が悪すぎる。
愛は戦争やでーと、の声が聞こえた気がした。
だからまだそんなんじゃないと言っているだろう!と、は脳内のに言い返して顔を上げた。
「・・・いや、悪い。何だ?」
「いえ、ええと。」
新八は新八で、の目覚しい変化(主に可愛さ増量)にうろたえつつ言葉を探す。
頭の片隅では、こんな可愛い人と銀さんが・・・と考えてムカッとしたりしていた。
「、こんな挙動不審な変態眼鏡は放っておいて私とデートするネ。」
「ちょ、神楽ちゃん」
ぐいっとの腕に絡んで寄り添う神楽に新八はずり落ちた眼鏡を押し上げて声を上げる。
は子供の扱いを未だ心得ておらず、どうしようかと無表情でオロオロしていた。
「を一人にするなんて銀ちゃんもダメヨ。には私みたいなワイルド系の女がピッタリアル」
「ワイルドっつーかバイオレンスだから!」
珍しく引かない新八。
言い合いは激しくなりつつある。
神楽はの腕から離れ、新八に掴みかかる。
元々そんなに気が長くないは飛び交う罵詈雑言に苛立ち、口を開こうとした。
その時。
「その調子で喧嘩してなせェ、さんは俺と長い夜を甘く楽しみましょうや」
声の主は、の腰を背後から抱きしめ肩に顎を乗せて愉快そうに囁いた。
鬼と化した神楽が飛び掛ったのは、当然の話である。
「・・・・で、なぜここに居るんだ?総悟」
焼きとうもろこしを振り回す神楽は新八に預け、は総悟と向き合う。
総悟はニヤリと笑った。
「そりゃあ勿論、あの銀髪からさんを攫って逢瀬を交わそうと」
「・・・・」
「降参、嘘でさァ。お上の警護です」
「将軍か」
「暢気なもんだぜィ、このご時世に花火見物とは命が惜しくないらしいや」
真剣な表情のの手からりんご飴を奪い、わざわざが齧った所を探して歯を立てた。
そしていやらしく笑う。
「俺もアンタを手篭めにできるんなら命なんざ惜しくないですぜ」
こいつは挨拶代わりにセクハラをする奴だな、と
は呆れながら総悟の手からりんご飴を奪い返した。
「なら仕事に戻れ。」
「お上の足元にゃ土方さんと近藤さんがいる。巡回警備をかって出たまででさあ」
「テロが起こる可能性もあるだろう」
「そりゃあいいや」
ケラケラと声を上げて総悟は笑い、指についた飴を舐めとる。
「祭りの日にそんな無粋な真似する奴ぁ、叩き斬ってやるさ」
子供のような笑顔で言い放った総悟の言葉が終わるのと同時に、空に花が咲き始めた。
時間は戻る。
銀時は完全に迷子になっていた。
と別れ、りんご飴を購入したところでカラクリ技師のオヤジと出会い、言葉を交わして戻れば
そこに居たはずのの姿は無く。
うそーん、と周囲をウロついてもこう人が多すぎては見つかるはずも無い。
溶け始めたりんご飴を口に含んで空を見上げた。
ドン、と花火が上がる。
暫く前の自分は、一瞬で消える光なんて見たくも無いと思っていた。
けれど今はどうだ、と銀時は微笑む。
今は素直に綺麗だと思える。
それは。
手放せないと思う輝きが、愛しい光が、いつも傍にあるからだ。
目に見えなくとも信じられる距離に。
「おめーには無いんだろうな」
微笑んだまま視線を下ろした銀時は
背後に立ち銀時の腰に刀の刃を当てる高杉に、独り言に近い声で呟いた。
高杉は喉の奥で笑い、刀を握る手に力を込める。
刀身がもしも衣服の上からではなく銀時の素肌に触れていたら切れている力で押し付けた。
「銀時ィ、てめェ弱くなったか?」
馬鹿言うんじゃないよ、大事な奴が三人居るってのに
更に愛しちゃってる奴まで居るのに強くならなくちゃ嘘だろう。
口には出さずしかし心の中で吐き捨ててから銀時は口を開いた。
「・・・なんでテメーがこんな所にいんだ・・・」
「いいから黙って見とけよ。すこぶる楽しい見世物が始まるぜ」
高杉がそう言った刹那、遠くで爆音が鳴り響いた。
高杉と銀時を視界に納めたままは口いっぱいに焼きそばを含んでいた。
両腕にはわたあめや焼きイカやら、頭にはお面やら、なかなか祭りを満喫している。
「始まったなあ、彗」
人々に広がる混乱を眺めながらがそう言うと、すぐ側の茂みから彗が現われた。
「・・・気配を殺していたのに、何故気づいたんです」
憮然とする彗にわたあめを差し出してはケラケラと笑った。
「彗は意地でも俺を独りにさせへんやん」
「・・・それは」
俺まで去ったら、アンタは本当に独りじゃないか。
彗はそう言おうとして、けれど言えずにわたあめを受け取った。
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うわー・・・引っ張っちゃった・・・。