爆音と同時に広場から煙は広がり。
は驚いて振り返る。


咄嗟に新八と神楽を背中で庇ればすでに総悟の姿はなくて
徐々に広がる周囲の混乱に眉を顰めた。

「神楽、新八。」
「嫌ですよ」
「嫌アル」
「・・・・まだ、何も言ってないだろう」

苦虫を噛んだような表情のに神楽と新八は笑った。
笑っての両側に立って背中を叩く。

え?とは思った。
自分を見詰める目の前の子供たちが、あまりにも頼もしく微笑むから。
変わったのは自分と銀時だけじゃないと気づく。
時間は誰にも公平に流れる、その意味を思い出す。


「どうせ帰れって言うんでしょう?
 帰るなら一緒に。残るならそれも一緒に。・・・当然でしょーが。
 さんだけ残して帰ったらそれこそ銀さんに殴られますよ」

「私は殴り返すけどな」

「神楽ちゃん、君が殴ると銀さん死ぬから」
「いつでも殺す気で行けって私のパピーいつも言ってたアル」
「お前のパピーは娘に何をさせたいんだ」

じゃれ合う新八と神楽を前には、無条件で受け入れられたような感覚が嬉しくて
ゆっくりと感情に任せて微笑んだ。

家族の温かみだとか、他人の温もりだとか、そんなのは知らない。触れた記憶が無い。
それでもきっとこういうのなんだとは酷く納得した。
胸の奥があたたかい。


は祈るようにほんの一瞬だけ目蓋を閉じて想う。
銀時、と。

(銀時)




その声が届いたようにその時銀時もまた星を見上げた。
背後の高杉を刺激しない程度の、ほんのささやかな動きではあったけれど。
混乱と喧騒から隔離された空間に居るように、そっと静かに。





愛を呟いて。











エピソード18      囁かれる真実は












逃げ惑う人々をものともせず走り抜けながら、は銀色を探していた。
新八と神楽も手分けして探している。

「・・・銀、時・・・!」

日頃大声で人の名を呼ぶ事の無いはそれでも必死だった。
彼なりに、ではあるが周囲に愛を感じさせる程度には。

視界を埋める人の姿と流れるように近付く煙幕が邪魔をする。
万が一、銀時に何かあったら。
そう考えては一瞬で全身の血が凍ったような気がした。


徐々に走るスピードが落ちて、止まる。
震える両の掌を見下ろして、けれど網膜に映るのはとうの昔に失った人を思い出す。
(篁、俺は)
貴方を失って、に助けられて、銀時に救われた。
けれど銀時を失ったら。
生きろと言ってくれたあいつを失ったら。

「・・・・っ!!」


背中を這う恐怖と、まざまざと思い出す過去の血の色に足が震えて。

「あ・・・あいつは、篁とは違う・・・!!」
信念を守るために死ぬのではなく、信念のために生きると宣言したあの男は。

は自分に言い聞かせるように吐き出して視界に被る前髪をピントの合わない視線で見た。
そして徐に拳を振り上げて自分の太腿を拳で殴りつける。

「走れ」
震えたままの足に向かって言い聞かせるように囁いて。
「走れ!!」
怒鳴った瞬間に顔を上げ顎を引き地面を蹴る。
景色が再び流れ出した。

銀時も神楽も新八も変わってそして。
自分も変わった。
変わったはずだ、自分は。

「あの時とは違う」



大切なものはもう奪わせない。









は彗と並んで、まるで映画を観るように佇んでいる。
高杉と銀時の姿は捕らえたままで、は巨大な焼き鳥を貪っていた。

先程親衛隊の隊員から報告を受けた彗は呆れたようにを見下ろして口を開く。

さんを止めなくてもいいんですか」
「止められるんなら止めとるよ」
「ではどうしますか」

ああもうなんで面倒くさい事ばかり。
は寝惚けたような目で虚ろに思う。
戦場は簡単だった。人を殺せばそれで良かったのに。
刀を血で染めて。
肉を斬って。
断末魔をきけば、帰り着く家は静かで。


視界の中から消えては新たに現れる人の影に辟易して、は手にしていた串を放り投げた。
思考は混沌とした闇夜に溶けて混ざりそうになる。

「あかんなぁ。血の臭いがしよる」
「・・・やはり、俺が行きましょう。貴方は帰ったほうがいい」
が走っとるのに?」

ポツリと呟いたの声を彗は当たり前のように聞き逃さない。
それがにとってはどうしようもなく嬉しくて、煩わしい。


「・・・確かに貴方はさんに負い目があるかもしれない。けれどそれは」

「負い目やない、過去も今も俺はああするべきやったと思っとる。
 ああする事で終わる悲しみがぎょおさんあったんや。・・・せやけど、過去と今違うのは。」

このささやかな時間の流れを生きてきて変わったものは。


「あの時俺は自分を正義のヒーローやと思うとったっちゅうことだけや」


真実の姿を映す鏡の前で、初めて己の羽の色を知った天使。
三流童話の一節のようで微笑ましくも愚かしい。


「昔も今も、俺にとっては唯一のヒーローですよ。
 俺の悪夢を払ったのはアンタだ」

本気なのかただの慰めなのか分からない響きで告げた彗に
は「ああそう」とだけ答えて気だるそうに片手を挙げた。


「しゅーごーう」



の暢気な声と同時に、草陰から十数人の男が一斉に姿を現した。
そのままが手を真っ直ぐ前に差し出して指差すのは。


どこからとも無く現れた騒ぎの原因、謎のからくり軍団。


「ヒーローは強い。強いいうんは誰も殺さんで勝ついうことや。」

一歩前に踏み出て、彗に背中だけを見せては告げる。
謳うように。

「・・・あのガラクタ、周りの人間誰一人傷つけんで退かしぃ。行け」

瞬時に隊員達は走り出し、真選組に混じってからくりを倒し始める。
の言うとおり何よりもまず周りを護りながら。


それを見詰めるの、
悲しく揺れる羽織を眺めて彗は思う。



悪魔だって英雄になる、と。





まるでその言葉が聞こえたように振り返り、巻き起こる爆発を背景には微笑んで言った。




「篁を殺したんは俺にとっての正義や。
 せやけどどんな名目掲げても結局俺はただの人殺しなんよ」
 












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より出張ってるよ。どういうこと?