ドドドドドドドドドドドドドド!!!!
にこにこ新聞従業員宿舎に大きな足音が響いた。






エピソード3    アノヒト








ーーーーーーーーーー!!!」
は自室に走り込み、同居人(同じく配達員)のの名を叫ぶ。
台所で緑茶を淹れていたは、その声の大きさに湯飲みを落としそうになって慌てた。

「何やの。珍しい、お前さんがそない大声出すなんて」
「っ・・・あの、・・・預けた、刀・・・!!どこやった・・!!」

全力疾走してきたのかは肩で息をし足元も覚束ない。
はクキリと首を傾ける。

「刀?」
「そう・・!!刀!!!!預けただろう、お前に!!」
は大分回復したのか顔を持ち上げ鼻息荒く怒鳴る。
はポンと手を叩いた。

「ああ、アレ。使いとうないから俺に預けたんちゃうの?持つと手加減できへんようなるからて」
「手加減できなくて良い野郎なんだ相手は!!あの野郎!あの野郎!!もう許さん!!」
「あの野郎に何されたん」
「なにって・・・!!!」


言い掛けて、は言葉を切った。
脱力したように座り込む。その様子をは黙って見詰めた。


「・・・俺の事、好きなんだ。アイツ。」
「エエ事やん。」

の呟きには笑って返した。も小さく頷く。

「でも、俺はまだ追いついてない。好きだけど、そうじゃなくて・・・。だから、あんな風に急かされると、嫌だ」
「でも他に移り気されるんも嫌なんやな」
は俯き、再び小さく頷いた。
はそれを見て笑う。

「応えられへんのに縛るやなんて、随分な話やなあ」


は言葉を返すことはできなかった。














「なあ、坂田銀時てアンタ?」

パチンコ店の前で掛けられた声に銀時は振り向き、絶句した。
立っていたのはにも負けぬ壮絶な美青年。

「そうだけど」
「ほな」


ドゴ!!


見惚れながら銀時が頷いた瞬間、の拳が銀時の鳩尾に綺麗に入った。
「!!」
堪らず銀時は膝を着く。
それをは笑顔のまま見下ろす。


「な、・・・なにすんの、お前・・・!!」
「それはコッチのセリフやねんで、兄さん。あんまを刺激されると困んねや」
「・・・・・・の、知り合い?」
「せや」

にこにこと微笑むを見上げ銀時はにやりと笑った。
「恋の常套手段じゃん?」
「あんな、はまだ過去を捨ててへんねん。想いも残したままや。」
「過去?」

「せや。重い、過去や。アンタにもあるんとちゃうの」


の台詞に銀時は声を詰まらせた。
確かにそれは銀時にもあり、今だ夢見るほど鮮明で。
重い。


はな、愛した人がいてん。多分まだソイツに囚われたまんまや。
せやから刺激しすぎると拒否反応起こしてまう。はちゃんと、ゆっくりアンタを好きになってんねんから。
・・・・せやから、アンタが我慢したらな。好きなんが嘘やないんやったら、待ってやり」


銀時はを睨むが、は意に介した風もなく平然としている。

忌々しいと銀時は思う。
我慢の限界などとうに越えて居るのに、まだなのか、と。

好きだからこそ我慢できないものもあるだろう。


しかし銀時の思考を読むかのようには再び笑って、銀時と視線を合わせるようにしゃがんだ。


「待てへんのやったら、今の内に消えてもらうで?俺はの不幸は許さへんから」


の表情はどこまでも笑顔だが、本気なのだと銀時は直感する。
銀時は溜め息をついて立ち上がった。

「上等、最後に愛されちゃうんなら銀さんも頑張りましょ」
「なんや、エライええ男やないの」

同様に立ち上がったが言った言葉に銀時は膝の汚れを払いながらフフンと笑う。

「当然。将来の全てを頂く男よ、俺は」



は一瞬ポカンと銀時を見詰め、そして大きく笑い「そうなったらええな」と告げて去っていった。








次の日、はうって変わって沈んだ様子で自室に戻ってきた。
は読みかけの本を放りに近寄る。
顔色が悪い。



「今日はどないしたの」

の呼びかけにも反応せず悲しそうに睫毛を伏せる。憂える美少年の完成図。
は頭を掻いた。

「また何かされたん?」
は力なく首を振ってソファーに倒れ込んだ。顔を布地に押し込め、くぐもった声で洩らす。
「銀時が急に余所余所しくなった。・・・それに傷つく自分が、嫌だ。傲慢にもほどがある」
その言葉には苦笑いを零し、の傍にしゃがんだ。

サラリと、髪を梳く。

「極端な男なんやなあ」

昨日の銀時を思い出しては笑う。
余裕のある大人のフリをして、に関するとまるで子供ではないか、と。

「・・・あー・・・銀時如きの為に沈むのが腹立たしい」
「ええんとちゃう?は回り巻き込んででも、よおく考えて最後にちゃんと幸せになったらええ。
文句言う阿呆は俺がシバキ倒したるわ」

にっこりと笑って言うを、顔をずらしては見詰め小さく笑った。
「甘やかしすぎだ、馬鹿」

は言って、立ち上がる。
はしゃがんだままそれを見上げた。

「仕事?」
「ああ、毎日恒例のお茶会」
「律儀やなあ」

笑って出て行くを見送り、大きく振っていた腕を下ろしては閉じた扉を見詰めた。


「安心して甘えり。俺はその為に傍におんねん」









は真撰組に向かう途中も考えていた。


自分はどうしたいのだろう。
自分はどんな未来を望むのだろう。


愛されている。
それは確かに伝わっていて、けれど真正面からそれを受け入れることはできない。
受け入れてしまえば答えを出さなくてはならなくなる。
この甘く温い日々に終止符が打たれるのだ。どんな形であれ。


銀時を失うのは怖い。大切だし、大事だ。
けれどアノヒトにはまだ届かない。心はまだアノヒトに残したままで取り戻せない。


なんて残酷なのだろう、とは嘲笑した。
このまま何も変えずにいられたらどんなにいいだろうと思う自分が卑怯で、悲しかった。










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親友登場。しかしこのイキアタリバッタリなやり方で終わりはあるのか、自分。