「最近らしくないんじゃないですか、アンタ」
新八のいやに真剣な声音に、銀時は顔に乗せていた雑誌を鬱陶しげに払い落とした。

(分かってるさ)
声には出さず、態度にも出さず。銀時は呟く。

ただ知らなかっただけだ。
自分が、こんなに融通の利かない男だなんて。応用も順応も加減も調整もできない、まるで。

(まるでガキだ)

そもそも自分らしいとは何なのか、と銀時は虚ろな目を移ろわせて思う。
今の自分がもしかしたら本来の自分であるかもしれないし、違うかもしれない。
正しい答えなど初めから用意されていない。

眩しい陽光に再び目蓋を閉じた。




エピソード4     葛藤







銀時が起きた頃には、新八は買出しに出掛けていた。神楽も定春もいない。
ゆっくりと体を起しテレビをつけると、朝の番組でお天気お姉さんをしている結野アナウンサーが画面を占領した。

振りまかれる笑顔に銀時はボンヤリと見入る。
女性特有の柔らかい笑みは少しだけ銀時を癒す。

「・・・でもよォ、俺は、あいつが良いわけよ」

誰に向かうものでもない言葉を零し銀時は自嘲した。


銀時は女を知らぬわけでも人を愛したことがないわけでもない。
ただ今までの恋愛において、我慢というものをしたことがなかった。

いいと思えば口説き、押し倒し、愛を囁く。手順も何もかもを無視しただ己の本能に従順に。
それで愛した人が逃げても銀時は追わない。傷つかないわけではないが、冷静でもあった。
追っても同じ事の繰り返しだ、と。



しかし相手にそれはできないと銀時は思う。
何より自分が、それを許せない。傷つくだけでは済まないと知っている。
しかし問題は我慢をしたことがない故に、仕方も知らないという事だ。


「まあ、確かに不自然だったけどねえ」


苦肉の策として銀時はとの接触を完全に止めた。
この一週間朝刊を持ってきたに顔すらも見せなかったのだ。

銀時にはそれが精一杯でもあった。
逢えば声を掛けたくなる。
名を呼んで、振り返られたら会話をしたくなる。
自分の話題に微笑まれれば抱き締めたくなる。
そこまでは坂道を転がり落ちるように早く到達し、我慢のしようもない。
銀時は再び笑う。
泣きたい時に笑う自分はやはり大人なのかもしれないと思いながら。








翌日。
は怒りと反省の念の間で右往左往しながら、万事屋の前で仁王立ちをしていた。
手には少し遅めの朝刊が握られている。

(銀時が悪い。殴る。・・・しかし俺も随分な態度だったのは確かだ。謝る。でも最近の態度が更にムカつく。殴る。)

展開を頭の中でシュミレートしながら指折り数えるのは銀時を殴る回数。
計13発。
グッと拳を握りは扉を見据える。
覚悟を決めたように扉を叩こうとした瞬間。




「・・・・・お主、か?」




掛けられた声に、は振り返り瞬時に眉を顰めた。



「・・・・・カツラかよ」
「カツラではない。桂だ。イントネーション一つで大惨事だ馬鹿者」


不機嫌そうに言い放ち笠を錫杖で持ち上げる。
「合間見えるのは戦場以来だな」
不敵な笑みで言う桂には微かに瞳を揺らす。
それを桂は見逃さない。


「・・・お主、篁(タカムラ)は?」


その名を桂が口にした瞬間、は手に握っていた朝刊を足元に落とした。
その音に肩を震わせ、は自分の体を抱き締める。まるで。

あらゆる存在から隠そうとするように。




桂の呼ぶ声も、にはもう届かない。
「・・・・っ!」

は踵を返し、乗ってきたカブも置き去りに町の中へと走り去った。










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あれ?久々銀魂なのに短いよ?あれれ?
じつは次の話への繋ぎだったり。ヅラが万事屋に来た!!といえば、そうです。ハム子の事件です。
・・・・・・次はいつになるのだろう。BLEACHとはエライ差だな。