「 ちゃんと帰ってくるんやで、。約束や」
「ああ」
はをに差し出して、顔中で笑う。
「頑張り。」
自分の悩みも決意も全て見透かされている。
はそう感じて、けれどそれは気分が悪いものではなく、ただ嬉しいと思った。
「ありがとう」
思えばに対して初めて使うその言葉を、は多少照れながら口にした。
ありがとう。
を握る手に、また新たな力が加わった気がした。
エピソード7 貫く想い
悪夢を、見ていた。
過去の記憶だ。遠い、後悔と懺悔の記憶。
何か参ることがあると、表面を繕ってもこうして夢で追い詰められていることを思い知らされる。
山のような屍の中を、仲間を背負って歩いてゆく。
背中に感じる仲間の体温が、本当にささやかで。
こいつも、死ぬのかと・・・ボンヤリ考える。
(俺ぁ・・・寂しいと死んじまうんだぞ)
呟く。
そういえば、同じセリフを誰かに言ったような。
乞い縋るような気持ちを隠して、信じられないほど美しく、残酷なほどに一途な・・・・・。
(・・・名前、何て・・・言うんだっけ?)
思い出せない。夢だと分かっているのに、現実のことが思い出せない。
その感覚は、現実で昨夜見た夢の内容を思い出せないのと酷似している。
(・・・・なんで、俺は)
一瞬で、現実と夢の境目すら見失う。
(大切なのは・・知ってんのにな)
地面に横たわる骸骨が囁く。
(捨てちまえよ、てめーにゃ誰かを護るなんてできっこねーんだ。)
ああ、そうかもね、と呟く。
泣きたくなるような気持ちにはならない。
捨てる気にも。
(今まで一度だって大切なモンを護りきれたことがあったか?)
背中に背負った仲間が語りかける。
なかったかもね。
結局この手は血で染まって、ただ、俺は人を殺しただけで。
それでも。
遠くに感じる、誰かの手の暖かさに目蓋を閉じる。
(俺は、過去を振り返るなんて趣味は捨てる。)
これからは、ここからは・・・あいつが居るから。
お前がいるから。
奇跡が降るように、敬謙な魔術のように、思い出す。
甦る、名前。
。
(俺はお前と未来を見る)
銀時はフ、と微笑んで、腕に力を込めた。
そして息を吸う。
確かな声を、出したいと思った。
「悪い。やっぱり俺は何も捨てずに幸せになりてーのよ」
幸せに。
大切な人と、大切な仲間と、ついでに他の何人かで。
背後から銀時の首に、ゆっくりと腕が回った。
何かを確かめるように優しく力が込められる。
「・・・じゃあ、もう此処には来るなよ」
聞こえた、かつての友人の声に銀時は静かに頷いた。
「ああ、さよならだな・・・やっと」
悪夢は光に飲まれ塵となり、銀時を優しく現実へ引き戻した。
宇宙海賊“春雨”の宇宙船に忍び込んだは事の状況に多少驚いたが、どこかで酷く納得していた。
屋根裏に潜んで、小さな隙間から下を覗けばそこには横たわる神楽と新八。
その様子から例の麻薬を使用されたとすぐ分かった。
そのすぐ傍にはガマガエルのような天人とラクダのような顔の男。
春雨の連中に神楽と新八が捕まっている。
だから銀時はあんなにも無謀な負け方をしたんだ、とは思う。
普段は飄々としていて、掴み所も無くどこか道化じみている。
そんな男が子供二人の為に容易く崩れ去った。体裁も何も無く、無様な負け方をした。
の柄を握り締め、瞼を落とす。
そして笑った。
「こんなに清々しいのは久々だ」
はを引き抜き立ち上がる。
ラクダ顔の男が神楽達を見下ろして何かを言った瞬間。
が天井を穿ち、が音も無く降り立った。
「初めまして、お会いできて至極光栄だ。」
そしてゆっくりと顔を上げる。
凛と、燦然と響く声音。
衝撃に揺れる紅蓮の髪。
「アイツの傷を、返しに来た。俺の誇りに懸けて。」
朦朧とした意識の中で、新八はその姿を見て。
(綺麗だな)
ただそっと、そう思って再び目蓋を閉じた。