出口の外は甲板で、当然敵が待ち構えていた。




「最悪だ」




は溜め息を吐いた。

そもそもが得意とするのは忍びらしく、影となり、形、音も無く事を成すこと。

姿を見せて相手ができるのはせいぜい十数人。ここにはその何倍もの海賊船員が集まっていた。



「おい銀時・・・・・銀時?お前何だその顔」



明るくなった事でやっと鮮明に見えた銀時の顔に、は微かに目を見開く。

銀時の顔にはマジックで、大きな傷が無造作に描かれていた。

しかもよくよく見てみれば格好もおかしい。


「何ってお前、キャプテン志望だから。」



銀時の返答には頭を抱えた。





(馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまで・・・・)




ついでにこの状況を打破する策も思いつかず唸る。

自分の認識の甘さに眩暈がした。




しかし銀時はニヤリと笑う。



「悲観すんなよ。俺が居るでショ」


は顔を上げて、銀時の横顔を見詰めた。真っ直ぐに前を向く、揺るぎの無い姿。



自然に微笑む自分が嬉しいとは思った。












エピソード9    己の国










銀時は新八を背負い、は神楽を背負って。

お互いに背中を合わせる。

つまり背負った彼らを護る態勢。



意識を取り戻した陀絡までもが追い着き、完全に達は敵に挟まれる形になった。


爆発で生じた煙が足元を這う。



そして意識に触れた気配に、は顔を上げた。




「やり過ぎだ、桂」




視界に捉えたのは桂の姿だった。

両手に爆弾を持っている。




「俺の用事は終わった。好きに暴れるがいい。邪魔する奴は俺が除こう」




桂はの言葉を敢えて聞き流し言い放った。


は苦笑いを零して銀時に向き直る。




「だそうだ。・・・俺も、助力しよう」



「ああ、そうだな」




銀時はゆるりと笑って新八をの足元に寝かせた。

その瞬間、の表情が変わる。



それは絶対的な壁を生み出した。完全な守護の鉄壁。

は新八と神楽に些細な傷も許さないだろう、と信頼できる強さ。


銀時は再び笑う。

そしてゆっくりと立ち上がりの頬に一度だけ触れた。



は、それを不快には感じなかった。

目蓋を伏せて微笑む。


その様子に銀時は小さく目を見開き、名残惜しそうに離れて背を向ける。




(帰ったら、距離を測り直そうかね)




もしかしたら、知らぬ間に自分との距離は近付いているのかもしれない。



甘い期待感に頬を緩ませて銀時は刀に手を添えた。












爆発音が響き続ける中で、船員の多くは“攘夷党の桂”というフレーズにつられ銀時達から離れていた。


は黙してそれを見守る。勿論、視界から神楽と新八・・・そして銀時の背中を消す事無く。


を握ったまま、銀時の背中に篁の姿を重ねていた。



最期に見た、篁の記憶。


そして言葉を思い出す。







                           “俺と共に死ねるか、







勿論だ、と答えた。

そうして、それを果たせなかった自分を永い間罵り続けた。





それを思い出し、はクスリと笑った。







「銀時は、俺に生きろと言ったよ、篁。だから俺は生きようと思う」






いくばかの大切な人たちと。
















陀絡は眼鏡を指先で押し上げて達を背で隠すように立つ銀時を睨んだ。





「てめーら終わったな。完全に“春雨”を敵に回したぞ。

 今に宇宙中に散らばる“春雨”がてめーらを殺しに来るだろう」



「知るかよ」



銀時は即座にその言葉を跳ね返した。

態勢を少しだけ低くして刀を握る。



「終わんのはテメーだ」




引き抜き、陀絡に突きつけた。



「いいか・・・てめーらが宇宙の何処で何をしようと構わねー。」


言葉の裏で銀時は考える。


「だが俺のこの剣」



(だが俺のこの腕)



「こいつが届く範囲は俺の国だ」



(この腕で抱きとめられる温もりは奪わせない)



「無粋に入ってきて俺のモンに触れる奴ァ、将軍だろーが宇宙海賊だろーが隕石だろーが」



銀時は刃を己に引き寄せ構えた。

そして足の裏に力を込める。


そして地を蹴った。



「ブッた斬る!!」








陀絡と銀時は交差して、そして倒れたのは陀絡の方だった。



刀を鞘に収めた銀時はを振り返る。


そして目の前の光景にズッこけた。



「何だ」

「いや、お前凄いね・・・」



の周りにはのされた船員が山のように積まれていた。

それは、の作った壁の中に踏み込もうとした連中の成れの果て。




フンと鼻を鳴らしは乱れた神楽の前髪を優しく梳く。


銀時はムッとしたが女の子にまで嫉妬する自分が情けなくなり頭を二度振ってに歩み寄った。





「これなら余裕で振り切れたんじゃねーの?」


「いいや、俺は俺の陣地を護っただけだ。攻めるとなると勝手が違う」


「ふうん」



頭を掻いて銀時は新八を抱え上げようと屈んだ。が。




「俺はお前のモノか」




頭上から降ったの言葉に動作を止めた。というよりも固まった。





「そ、そうなると、いいなー・・・・なんて」





殴られるか。発砲されるか。斬られるか。



あらゆる対処を脳に巡らせながら銀時は恐る恐る顔を上げる。


きっと鬼のような顔をしているに違いない。自分は距離を見誤ったのだ。



己の身に降りかかるこの後の惨劇に合掌しながら、逆光に煌めくを見上げて。



唖然とした。




「笑えない冗談だ」





穏やかに、少しだけ頬を染めて言ったを目の当たりにして銀時は電池が切れたように尻餅を着く。



「あ、あー!クソ!!反則、反則だ!!ちょっと俺を泣かせる気!?」



腰砕けとはこのことだった。銀時は有り得ないほど顔を真っ赤にして、それを必死に隠そうとする。


「な、何言ってるんだお前」


理解できない銀時の行動と言動には眉を顰める。



「ちょーっと、信じらんねー・・・。うわ、マジで?」


「だから何がだ!!」








銀時はの目を見据えた。真っ直ぐに、逸らすことを許さない真摯さで。

そしてゆっくりとの手をとり、甲に口付ける。


はピクリと身体を震わせたが手を離すことはしない。銀時は気を良くしてニッコリと笑った。




「愛してる。・・・お前を過去から奪うよ、俺は」


「・・・・・・・上等だ」




 
そして二人はクスクスと長い間笑い続けた。










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一部完的オチ・・・?
は銀時にかなりよろめいてます。
さて次回はそんなが過去の人にささやかな決着をつけます。