「まあ普通に考えてありがちな展開だよな、鋼」
「じゃあこうなる前に言えよ!!」
平然と言い放つ。
さして危機感も匂わせず怒鳴るエド。
教会を訪れた達を迎えたのは三人の教徒だった。
そしてそのうちの一人が突如アルの頭に銃を突きつけ発砲し、次の瞬間にはエドもも取り押さえられた。
エドは無言で銃を発砲した教徒を睨みつけ、は頭を掻いて自分とエドを抑える教徒二人に目をやった。
鍛えられてもいない、実践をほぼ知らない素人だと一目瞭然な彼らにはにやりと笑う。
アルは鎧の頭部が弾け飛び、体は衝撃で床に倒れている。
「師兄!何をなさるのですか!!」
銃を持った教徒に向かって、一人自由な身のロゼが声を上げる。しかし教徒は怯まない。
達に視線と銃口を向けたまま口元に笑みを浮かべた。
は無表情のままソレを見る。
(殺してやろうか)
はひっそりと思い指をピキリと鳴らす。
(簡単に、殺せる。殺してもいいだろ、こんな連中)
そこまで思って、ハッとしたように二度頭を振った。外れそうになる箍を必死で食い止める。
そして慌てるようにはエドの髪に視線を移した。
暗闇の中でも微かな光を絡めとリ煌く金の色。
記憶を揺さぶる美しい光景には小さく息を吐いた。
金色。愛しい色。
それはの心の中にある憎悪を食い止める絶大な効力を持っている。
「ロゼ、この者達は教主様を陥れようとする異教徒だ。悪なのだよ」
「そんな!だからといってこんな事を教主様がお許しになる筈・・・」
「教主様がお許しになられたのだ!
教主様の御言葉は我らが神の御言葉・・・これは神の意思だ!!」
教徒は陶酔した表情を浮かべ叫び、エドの額に銃を突き付けた。
しかし引き金が引かれるよりも早く。
「酷い神もいたもんだ」
首がない状態で立ち上がったアルが教徒の握った銃を押さえた。
その光景に教徒が隙を作った瞬間同時にとエド、そしてアルが動いた。
エドは小さく屈み後ろにいた教徒の腕と胸倉を掴んで思い切り床めがけて背負い投げ。
アルはその鋼鉄の拳で教徒の顎にパンチ炸裂。
そしては。
「オラァ!!行くぜ、瞬殺ホームラン!!」
背中から抜いた(鞘に差したまま)の刀で、上に放り上げたアルの頭部を教徒に向かって打ち飛ばした。
「満塁逆転!!」
ガッツポーズを決めるの後ろでアルは悲しそうに“ボクの頭・・・”と呟いた。
「どどどどどどど、どうなって・・・!!」
平気で動いてるアルを指差しロゼは驚愕で震えていた。
はヒョイとアルの体のよじ登り中をしげしげと眺める。その行動にはエドもアルも固まった。
「空だな。魂の定着か・・・芸達者だな、鋼」
世間話でもするかの様な口調では言い、飛び降りる。
「、驚かないんだね」
「まあなんとなく気付いてたしな」
アルの言葉にはアルの体を手の甲で軽く叩く。
「経緯も予想はつく。」
は言ってエドの左足、右腕、そして目を見る。
エドはその真っ直ぐ叩きつけられるの視線に目を逸らした。
「気付いてるのか、全部」
漏らすような言葉には顎に手を当てる。
「そうだな、ま、大体。」
の言葉にエドは俯き目蓋を閉じた。
自らの業を全て、あの深い海の底のような目に見透かされている。
エドはなぜだか無性に悲しくなった。
はロゼに顔を向け、腰に手を当てた。
「嬢ちゃん、神様の正体ちゃんと拝んだか?」
「そんな・・・何かの間違いです!!」
「あーもー、このねえちゃんはここまでされてまだペテン教主を信じるかね」
即答したロゼには笑顔を引き攣らせる。エドも呆れたように息を吐いて呟いた。
エドは数歩歩み足を止め、ロゼを振り返る。
「ロゼ。真実を見る勇気はあるかい?」
教主が居るという部屋は明かりもなく真っ暗だった。
とエド、そしてアルの三人が中に入ると扉は勝手に閉まり、そして男の声が響いた。
「神聖なる我が協会へようこそ。協議を受けに来たのかね?ん?」
達を見下ろすように現れた教主コーネロにエドはにやりと笑い返した。
はつい、と視線を巡らせそして笑う。
「あー悪いんだけど脂ぎったオッサンの御託は興味ないからさあ、さっさとこの豆に渡してやってよ。
・・・・持ってんだろ、賢者の石」
「誰が豆粒・・・・って、!!気付いてたのか!?」
いつもの様に“豆”という単語に反応して怒鳴ろうとしたエドは思い留まってを見据えた。
「そりゃ気付くだろ。法則無視の練成、明らかに怪しいあの指輪。・・・・欲しいんだろ、アレが」
何でもないようには言う。エドは唖然として言葉を失った。
はエドを見て口元だけで笑った。
そして再びコーネロに視線を戻す。
「そういうわけだ。オッサン、それ寄越せ。んで俺に殴られろ。」
まるでそれが世界の決定であるかのようには言い放つ。エドは唇を噛んでコーネロを見上げた。
「アンタ、ペテンで教祖におさまって何を望む?金ならその石を使えばいくらでも手に入るだろ」
内心目の前にある賢者の石に焦りながらエドは言い放つ。
しかしコーネロはいやらしく笑い指輪を嵌めた手をかざした。
「金ではない。・・・いや、金は欲しいがそれは勝手に入ってくる。信者の寄付という形でな。
寧ろ私の為なら喜んで命を捨てる従順な信者こそが必要なのさ。
素晴らしいぞお!?死をも恐れぬ最強の軍団を従え数年の後私は必ずこの国を切り取りにかかるぞ!!
フハハハハハハハハハハハ!!!!」
陶酔しきって高笑いを出すコーネロには冷め切った目を向けた。
「いや、そんな事はどうでもいい」
エドは興味なさげにコーネロを見据え言い放つ。
「軍の人間でもオレはぶっちゃけ軍とか国とか知ったこっちゃーないんだよね。
オレが欲しいのは賢者の石だ。それさえ渡せば町の人間にはアンタのペテン黙っといてやるよ」
エドの隣ではパチパチと両手を叩き大きく笑った。
「そうそう。大人しく俺にボコられりゃ、俺も黙っておいてやる。二、三ヶ月病院通いだがその程度の代償で野望は叶う。安いもんだろ?」
危険なの笑みにコーネロは頬を引きつらせ数歩後ず去る。しかしまだ自分のほうが有利だ、と、笑顔は崩さない。
「はっ!!この私に交換条件とはな・・・!!貴様らのような余所者の話など信者共が信じるものか!!
馬鹿で忠実な信者だ!!私の僕だ!!いくら騒ぎ立てても耳もかさんぞ!!」
そこまで言って見るからに血圧を上げ肩で息をするコーネロをは視線で一蹴する。
(クズが)
再び箍が緩む。
拳を握り爪が掌の内側に喰い込んで血が滲み微かな痛みが走る。
痛みに意識を集中させは目蓋を閉じて深く息を吸う。
エドは見事に己の悪事を吐いたコーネロに拍手を送りながら笑った。
「いやーさすが教主様。いい話聴かせてもらったわ。確かに信者はオレの言葉にゃ耳も貸さないだろう」
その隣でアルが胸の部分の鎧を外す。空であるアルの内部に、
「けーど、彼女の言葉にはどうだろうね」
ロゼが、入っていた。
コーネロに詰め寄るロゼをは冷えた目で眺めた。
奇跡の業は。神の力は。人を蘇えらせてくれないのか、とロゼは叫ぶ。
馬鹿じゃねえの。
は思う。
無様に泣き叫ぶロゼがあまりにも滑稽で、賢者の石による人体練成の成功の可能性を示唆するコーネロが醜悪で。
同情の余地も情けの必要もない二人にはその感情しか抱かない。
コーネロの誘惑の言葉にロゼは震える。
手を差し伸べ招くコーネロを見据えたままエドは舌打ちをした。
「行ったら戻れなくなるぞ」
ロゼの返答はない。
は苛立って乱暴に髪を掻き混ぜ足を大きく踏み鳴らした。
その大きな音にロゼどころかエドも体を一瞬震わせる。
振り返って見たのは、俯いて片手を腰に、そして右目に手を当てたの姿。
「行けよ。行ってテメエの言う神とやらに存分に縋れよ。
だけどな、そんなもの俺が潰すぜ。そのオッサンごとこんな宗教消してやる。」
言葉と同時には少しだけ顔を上げる。
覗く青の目。
その目に押されるようにロゼは足を動かした。
振り返り達を見る。
「わ、私には・・・これしかないのよ」
呟かれたロゼの言葉にエドは呆れたように頭を掻いた。
コーネロは粛清と称し合成獣を呼び出して、達に仕掛けてきた。
ライオンの上半身にワニに似た下半身のキメラ。
口笛を吹くアルの隣でエドは両手を合わせた。そして屈み床の敷石に両手を着ける。
大きな音と風を引き起こし、エドは敷石から練成陣なしで槍を練成した。
その様子には目を細める。憐れみと蔑みを含んで。
キメラがまず狙ったのはキメラから完全に意識を外しているだった。
突進するキメラには視線を向ける。
動いた青の目に宿る鈍い光が闇に残像を残す。
「!!!!」
が顔を向けた瞬間キメラは前足を軸に急ブレーキをかけた。耳を寝かせ、完全に怯える。
が一歩踏み出せばキメラは一歩下がる。はくきりと首を傾げた。
「逃げるなよ」
ビクリと体を痙攣したように震わせ、キメラは逃げ出すようにから離れエドめがけて走り出した。
「そっちでも結果は同じだぜ」
は笑って手を振りキメラを送り出した。