「無えな。」
東方司令部に向かう途中の駅でのこと。
周囲をキョロキョロ見回していたが軽い口調で呟いた。
ササヤカな執着
「無いって、何が。」
エドがそう聞くとはクキリと首を傾げて。
「荷物一式、全部」
何でも無い様に返されて、危うく“ああ、そう”なんて返しそうになったが。
「・・・・・って何で暢気に言ってんだよお前は!!」
「いや、大事なモンは入れてねーし、まあいいだろ。列車遅いな」
どうでも良いと言いたげに空を見上げては目を細める。
そのすぐ隣でエドは顔を真っ赤にして怒鳴った。
「まあいいだろ、じゃねえよ!!盗まれたんだろうが!!」
至極もっともな意見にアルも賛同する。
大事なものは入ってないとはいえ、着替えやその他日用品など、根無しの自分達にとって財産と呼ぶべきものが入っていた事には間違いない。
無くては不自由はするのだ。確実に。
「盗むほど欲しかったんだろ。需要と供給だ。」
ヒラヒラと手を振って面倒そうに答えるに、エドは眩暈を感じた。
明らかに片方にしか利益の無い需要と供給など成り立つものか。
「・・・・・荷物、探すぞ」
呻く様に吐き捨てたエドに、は心底呆れたというような視線を向けた。
「ロイに用があんだろ。つまんねえ事で時間潰すのやめろ、鋼」
「お・ま・え・の!!荷物だろ!!」
「だから、いいんだよ。しかも今から探して見つかるわけないだろう。」
は執着心というものが皆無に等しい。
それがエドには我慢ならなかった。
簡単に切り捨てられた荷物と自分を重ねてしまうのは惚れた弱みだった。
まるで、いつかエド自身も簡単に、容易に手放されてしまうような錯覚に、ただ、ただ悲しさと苛立ちを感じる。
「・・・何必死になってんだ、鋼。」
呑気なの声音にも、抑えきれない感情がエドを襲う。
「何で簡単にそう手放せるんだよ、お前は!!」
執着するのは好きだからで。
それをエドがに、ましてや心の何処かで自分に対してそうであって欲しいと願うのは勝手すぎるとエドは自覚している。
それでも払拭しきれないこの想いはもはや理屈などとうに越えていた。
原因の分からない、しかし確かに叩きつけられた怒りの感情には眉を顰める。
その様子にエドは自分の八つ当たりを自覚し、狼狽した。
「・・・いや、・・・わ、悪い」
一気に居心地が悪くなったエドはから視線を外し呟く。
の視線を肌に感じ居た堪れなくなり、エドは心で列車の到着を願った。
「・・・誤解すんなよ」
の、いつもより冷ややかな声音に肩を震わせエドは顔を上げる。
視界に入ったのは珍しく真面目な表情の。
「俺は、大事なモンは大事にすんだよ。執着するし命も懸けてる。
・・・ていうか、お前がそれ疑うなんてどうかしてるぜ?」
その言葉にエドは全身が固まった。
何度も助けられた。それは命であったり、心でもあった。
何度も、何度も何度も。
繰り出された敵の攻撃をその華奢な体で受け止めてくれたり。
手足が疼き悲しくて眠れない夜に抱き締めてくれたり。
そして何より、今、ここに居てくれて。
エドは震える手の平を持ち上げて顔を覆った。
自身を殴りつけたくなった。
何よりも大事なことを見失っていた自分が途方もなく恥ずかしい。
「・・・ゴメン」
想いばかりが募って、それはどうしようもないほどで。
感情に振り回される自分を、エドは恨めしく思う。
「・・・ったく。ちゃんと自覚してろよ。報われなさ過ぎるだろ、俺が」
俯き唇を噛むエドには表情を柔らかく変え、軽い口調で言った。
その声にエドは顔を上げ、を見る。
「ゴメン」
今度はの顔を見据えてエドは謝った。
それに対しは笑みを深くする。
「ま、いいさ。子供の嫉妬は可愛いからな」
うって変わってからかう様な口調にエドは一気に顔を赤らめる。
「ガキ扱いするな!!」
「可愛いってんだから素直に喜べよ」
「喜べるか!!」
叫ぶエド。
笑う。
呆れたようにそれを眺めるアル。
空は突き抜けるように青く、世界もまた、微笑んでいた。