Because my thinking that this world is beautiful loves you in above all
            




「果てしなく暇だ、鋼。オレを楽しませろ。なんか芸やれ、芸」


「どこぞの王様か、テメエは・・・」


目の前で机に突っ伏し偉そうに言い放つに、エドは読んでいた本を閉じて呆れたように言った。
ここは東方司令部の敷地内にある国立図書館。
エドはロイへの近況報告のついでに立ち寄ったのだが。

。東方司令部が誇るラストウエポンに捉まったのだ。

仕方なしに本を片手に相手していたエドだが、こうも煩くては集中できない。
・・・ましてやエドはに想いを寄せている。集中しようと思うこと事態に無理があったのだ、とエドは降参した。

(そもそもこの状況はラッキーなんじゃないか?大佐に邪魔されないでと二人っきりってそうそう無いし)
エドはそうふと思った。意識したら一気に体が緊張するのが分かって。何だか自分でも、いじらしいじゃんか、と思う。

アルは宿で調べ物をしている。
聡い弟に今の自分を見られなくて良かったとエドは思った。
多分、恐らく・・・いや、確実に。
自分は今とんでもなく幸せそうな顔をしているに違いない、とエドは内心苦笑した。

はどんなに可愛くても綺麗でも男で、勿論自分も男で。しかもは性格もこの上なく男っぽくてオレ様な乱暴者で。
エドは長い間、悩み続けた。そして暫らく前に悩むことを止め、認めて諦めた。


(どう足掻いたって結局好きなんだよな)

悩むより努力しようと。愛されるために。
なによりもエドらしい結論だった。



「なんだ鋼。ニヤニヤして気持ち悪いな。」


目下エドにとって最大の難関は目の前の男が鈍感なことだ。
同性ということを踏まえて人目を気にし多少控えめになるものの、エドはに対して明らかに好意を示している。
それは態度であったり言葉であったり様々だが、しかしは持ち前の鈍感さで全てをスルーしてゆく。

「ニヤニヤって・・・いい加減気付け、馬鹿
他の事に関しては嫌になる程鋭いくせに・・・とエドは深く溜め息を吐く。

「馬鹿とはなんだ、このオレ様に。絢爛の名は伊達じゃねえぞ」
は憮然と言い放ち、椅子の背凭れに体を預ける。

先程までよりキチンと顔が見える体勢になったことにエドは喜びを感じるが、はつまらなさそうに椅子ごと体を揺らし始めた。

「似合ってないし、その通り名。誰が付けたんだよ」
「ロイ。・・・戦う様が踊ってるみたいだからだってさ。似合ってんジャン。美しいオレに」
ケケケ、とは笑うが、エドはの口からロイの名が出た事も、名を付けたのがロイであるのも気に喰わなかった。

もっとも、自分以外にに関わる人間に対しては相手が誰であれ少なからず嫉妬をしてしまう。
まるで子供の独占欲のようで、エドはその度に自分に言い聞かせる。


は、オレのじゃ・・・ない)


分かりきったことを度々言い聞かせなければならない自分の勝手さに辟易しながら、それでもエドは自分の言葉に傷つく。
いつでもそうしたいと願うのに叶わない現実を叩きつけられて泣きたくなる。

エドは、俯いて右手を握り締めた。
その様子を見ては眉を顰める。肩肘を着き顔を支えてエドの顔を覗き込む。


「今度は泣くのか?忙しい奴だなお前・・・・なんだ?情緒不安定か」
「誰のせいだと思ってんだ」
「オレのせいだって言いたいのか?責任転嫁すんな。お前のことまで面倒見れるかガキ。オレは自分だけで手一杯だ」


エドは本当に嫌になった。泣きそうになっている人間を、理由を知らないとはいえここまで突き放す奴を何故よりによって好きなのか、と。
それでも嫌いになれない自分がなんだか情けなくて更に泣きたくなる。


「ったく。おい、鋼。顔上げろ」

の近付く気配にエドは心臓を大きくなるのを感じた。しかし言われた通りにするのが癪で顔は上げない。
「・・・いい度胸だな、このオレを無視か」


はエドの隣に立ち、片手を机に着いた。エドの視界にの手が入る。綺麗だな、とエドは思った。触りたいと、感じた。
その瞬間は空いた片手でエドの頭を抱えるように自分に引き寄せた。乱暴ともとれる強さで。

「!!!!!!」

エドは文字通り固まった。指先まで微動だに出来ないほど。エドの頭は丁度の心臓の近くに密着しその鼓動がエドの耳の中に流れた。
規則正しく波打つその音はエドの心をしだいに溶かしてゆく。
・・・エドの心臓は壊れるのではないかと思うほど大きく鳴り続けてはいるが。


「落ち着いたら、遊ぼうぜ。暇なんだよ」
の声にエドはやっと動くようになった腕を持ち上げる。

「・・・飽きるまで付き合ってやっから・・・暫らく、許して」

エドは言って座ったままを抱きしめた。きつく、体温を確かめるように。仄かに鼻を掠めるの匂いが、愛しいと思う。
「仕方ねえなあ・・・」
くつくつと笑っても応える様に両腕でエドの頭を抱いた。そっと、受け止めるように。


のたったそれだけの動作でエドはやっぱりだけが欲しいと思った。何度後悔しても行き着くのはただ1つの、真実。
が、好きだというエドの中にある真理。


「もっと強欲になってみな。イイ未来が手に入るかもしれないぜ」


の言葉を一瞬理解できなかったエドは体を少し離してを見上げた。
は意地悪そうに笑ってエドを見下ろし、エドの心臓に人差し指を当てて言った。


「でもその前にここどうにかしな。お前の十八番の努力でサ。・・・オレが欲しいんだろ。これじゃオレを手に入れるのは無理だぞー?」


の言葉にエドは眩暈を起こしながら思った。

「気付いてたのかよ、チクショウ・・・!!」
「ケケケ。ま、精進あるのみだ、ガキ」
「上等だこのヤロウ!!覚悟してろ!!」


叶わないと思うには早すぎる・・・と。