それはまだ、ロイとが出会って間もない頃の話。












The name of this desire












「・・・・マスタング中佐。」

「ロイと呼びたまえ、

「・・・・マスタング、中佐。」

「ロイだ」

「・・・・」



一見無意味な攻防は、これで本人達は大真面目である。
ロイ直属の部下となって日が浅いは、
未だヒューズを恋しがりロイに心を開かないでいた。


はロイに気付かれないように舌打ちをする。
が、勿論ロイは目聡く気付いていた。


そして良い傾向だ、と一人満足する。
感情を表すのは良い傾向だ。

つい先日まではそれも無かった。ロイは思い出して苦笑した。
まるで小動物が成長する様を見守るように、の変化に愛しさが沸く。

ロイはが部下になってからというもの
日々の女性との交流を完全に断ち、仕事以外における時間の全てをに捧げていた。
宿舎に空きが無いためロイの家に間借りしている
寂しい思いをさせたくないというのもあるが、なによりもロイ自身がとの時間を楽しんでいる。

ロイの家のリビングにて、テーブルを挟んで向かい合い座る二人に特別会話は無いが
満面の笑顔で見詰めてくるロイに、とうとうの我慢も限界に達した。



「・・・ッ、俺は、いつになったら中央に戻れる!!」



苛立ったように怒鳴るに、ロイは冷たく微笑み返す。
残念だったな、少年。

そんな願いは叩き潰した。


「いつ、だと?君はすでに私の配下にある。望むことがあるなら口と態度を慎んでみてはどうかね」

「・・・・っ」

「ひとまずは、言っておこう。君の自由は私が奪った。」


その絶望を湛えた瞳さえもいつかは奪わせてもらう。
それこそ根こそぎに、何も残すことなく。



は一瞬、黒い感情に脳を支配された。
唯一の光を、ヒューズを奪われた。この目の前の男を殺せばそれは取り戻せるだろうか。
そして自己嫌悪に陥る。

それでは自分は何も変われない、と。


怒りというよりは悲しみの表情を浮かべ黙るに、ロイは頭を掻いた。
少し苛めすぎたか、と反省する。
正直なところ嫉妬の感情も少しだけ含まれていた。
ロイとての為に奔走しているのだ。

ヒューズに向けられる笑顔を、自分にも向けて欲しいというただ単純な願いの為に。




 
「安心したまえ。悪いようにはしない。」

「・・・・、アンタに、何が分かる」

「何も」


スラリと返された言葉には怯んだ。
そして感知した。

ロイは、の苦手な部類。


容赦なく人の傷口を抉り、暴く人間だと。



「何も知りはしない。だができる事もある」

「・・・・理由が無いだろう。俺を囲うとなれば、アンタの出世にも響くぞ。」


崩れたの口調にロイは笑みを深くした。
また一つ壁を打ち破った、と。


「理由はあるさ。至極簡単だが、十分な理由だ」





君に恋をしたのだよ、





ウィンクひとつ、臆面も無くロイが告げた瞬間。
は怒りの形相でロイに殴りかかった。








それから数ヶ月の後に、はロイを名で呼び
そして心の底からの笑顔を向けるようになる。