「兄さん、正直に言うべきだよ」
「・・・言えるかっ!!」
しゃがみこみコソコソ話し合うエドとアル。
しかもエドの顔は有り得ないほど真っ赤だ。
「けど言わないと絶対気付かないよ。鈍感じゃない」
「だけど、そんな、オレが言えるワケ・・・・!!」
は気配を殺したまま遠目に眺める。
二人の声は聞こえないが聞くつもりもない。
ただなんとなく微笑ましいその光景には傍観を決め込んでいる。
「そこを頑張って!!ボク応援するから!!」
「応援って、お前・・・いや、だけどだなアル。」
「だけどじゃないの!いい加減見てて苛々するんだから!!」
「苛々・・・・」
おお、今度は鋼の顔が少し青くなったぞ。兄弟喧嘩か?とは首を傾げる。
そろそろ気になり始めたはじりじりと距離を縮め始めた。
「いい、兄さん。ライバルは沢山居るんだよ?
大佐でしょ、ハボック少尉でしょ、加えてヒューズ中佐でしょ」
「んなの分かってるよ!・・・けどよ、言ったところでお前」
「言わなきゃ何も変わらないじゃないか!らしくないよ兄さん、等価交換でしょ?
変化が欲しいなら動かなきゃ」
エドは頭を抱える。
なぜ弟にもっともな説教をされるのか。
説教というよりもトドメではないか、とも思う。
認めたくない事実を目の前で、聞き逃せない大きさで口に出すなんて。
しかし言っていることは正しい。どこまでも正しい。反論のしようも無い。
「・・・・・っだああああ!!言えねえ!!!」
「もう!!兄さんの意気地なし!!!」
エドは堪らず立ち上がり叫ぶ。アルはそれを見て焦れた様に怒鳴った。
「大体な、お前は言えるか!?男だぞ、男!!しかも相手はだぞ!!」
「言えるかどうかじゃなくて言うしかないって言ってるんだよ、兄さんの分からず屋!!」
オイオイ、本格的に喧嘩腰だな、とは足を止める。
しかし会話の内容に自分の名が出たことに更に興味を引かれた。
「分かってるよ!!分かってるけどな、事は慎重を要するんだよ!!」
「身長なんか関係ないだろ!?大体兄さんの身長が伸びるの待ってたら時間がどれだけ掛かるか分からないじゃないか!!」
「そのシンチョウじゃねええええええええええ!!!!!!」
爆発。
四肢を駆使してエドは暴れるがアルも負けない。
は呆れて気配を絶つのを止め、頭を掻きながら二人に歩み寄る。
そして目の前で止まり、飛び交う二人の腕と足を視界に入れて溜め息をついた。
二人はに気付かず喧嘩を続ける。
「とにかくに言いなよ、兄さん!!」
「絶対ェ無理!!!」
は額に青筋を浮かべ大きく息を吸った。
「やめんかクソガキども!!!!」
ゴン!!!ガン!!!
鉄拳をアルとエドの頭に一発づつ。
「いってええ!!」
「・・・」
エドは頭を抑え動きを止め、アルも衝撃に驚いて止まる。
はアルを殴ったほうの手を擦りながら二人を睨んだ。
「何だ、鋼。俺に言いたいことがあるんだろう?」
の言葉にエドはボフッと体中から湯気が出るほど赤くなり固まった。
アルは目を(?)輝かせてとエドを交互に見る。
「兄さん!!」
アルの声にエドはハッとしてを見返した。
の、深い青の目に魅入られるように。
「言えよ、エド」
珍しく優しいの声音にエドは唇を震わせて開いた。
「、オレは・・・」
「うん?」
「ス」
「隙あり!!」
ドカ!!
憐れ緊張感に耐えられなくなったエドは、叫んでにチョップをしてダッシュで走り去った。
は呆然とそれを眺め、アルは慌ててエドを追う。
少し離れた建物の影にエドは身を隠していた。
アルは駆け寄りエドの顔を覗く。
「どどどどどどどうしよう、アル・・・!!」
「何やってるの兄さん、なんであんな・・・!!」
「いや、なんか耐えられなくて・・・・」
「ボク知らないからね・・・・・!!!」
「!!!」
アルが言葉を切り、そしてエドと同時に固まる。
二人の背後に。
「はああああああがああああああねえええええええ!!!!!」
鬼の形相で近付くの姿があった。
「ににににに兄さん!!!ボクは知らないからね!!!!」
「・・・・・・・・!!!!!」
その日、麗らかな春の午後。
平和な町にエドの絶叫が響き渡った。
好きだよ。
愛してる。
君に伝えたいのはただその言葉だけ。
「ったく、素直に可愛く言えば考えてやるのによ。馬鹿が」
「え・・・?」
「、それって」
「さあな」
かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな もゆる思ひを
せめてこのように愛しているとだけでも言うことができようか。
できそうもない。
伊吹山のさしも草のように、このように、燃えている恋の思いの火を、あなたは知らないでいることだろう。
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主人公が何枚も上手。