がヒューズに抱いた感情は、第一に、依存だった。
これはがヒューズと出会って少し時間が過ぎ去った頃のお話。
「ヒューズ!」
姿が見えなければ不安に駆られ、声が聞こえなければ無意味な衝動に押される。
今日もは一人で暗い部屋の中で、ただただヒューズの帰りを待っていた。
外から開いた扉は部屋の中に光を与え、は反射的に走り出しヒューズにしがみ付く。
「・・・・、ヒューズ」
腕に力を込めてその名を呼びながら、は心の底から安堵していた。
良かった、と。
帰ってきてくれて良かった。
ヒューズが仕事で部屋を出て、帰ってくるまでの間。
はずっと不安と戦う時間を過ごす。
分からなくなる。
今は、ヒューズは、自分が作り出した幻想で。
本当は自分はあの時からずっと独りなんじゃないかと怖くなる。
「・・・・ただいま、」
ヒューズはどこまでも自分に依存したを嬉しく、そして悲しく思いながら抱きしめ返した。
この子はもっと幸せになっていい。
沢山のものに愛されていい。
広い世界の中心であらゆるものに祝福されていい。
誰も、神様さえそれを認めなくても俺が決める。
幸せになれと。
そう思いながらの顔を覗き込んだ。
「今日はどんな一日だった?」
ヒューズは帰ってくると必ずにこの質問をした。
そしてどんなに変化の無いの返答も毎日欠かさず聞き続ける。
その中に何かの糸口を見つけようと一言一句漏らさずに。
「・・・・今日?」
「ああ、そうだ。外には出たか?」
「・・・・」
は後ろめたさそうに首を横に振る。
ヒューズはできる限り声も表情も明るく言葉を続けた。
「そうか、じゃあ窓の外に何が見えた?」
は少し考えて、顔を上げた。
頭の中に思い出す、窓の外のひかり。
「・・・鳥」
「鳥?」
「・・・・鳥が、窓に近付いてきて。窓を開けても逃げなくて、だから・・・パンをやった」
「そうか!」
ヒューズは嬉しくてつい声を大きく発した。
驚いて目を丸くしてヒューズを見上げるに、ヒューズは口を押さえて照れたように笑う。
も自分の一言がヒューズを喜ばせたのだと嬉しくなった。
「で?どんな鳥だった?鳴き声は?」
嬉々として上着を脱ぎながら訊ねるヒューズにも微笑む。
そして思った。
初めて気がついた。
ああ、これがヒューズの本当の笑顔なんだ、と。
知ってしまえば今までのどんな微笑よりも光り輝く表情。
ヒューズは事実、の前ではいつも微笑んではいたがそれはの為。
しかし今は違う。ヒューズは純粋に喜んでいた。
を保護してから今までの時間の中で初めて、は自分の世界にヒューズ以外を招き入れた。
それは紛れも無く窓の外に世界が広がった瞬間。
ヒューズはそれをただ胸の奥から喜んだ。
「・・・白くて、目が丸くて・・・このくらいの大きさ、で」
「ちょ、ちょっとまて、今紙とペン用意するから!な!」
上着を半分だけ脱いだ状態で、ヒューズは慌てて部屋の隅にある棚に向かい
ガタゴトと引き出しの中を引っ掻き回す。
そして皺くちゃの紙と、ペンを持って戻りと並んでソファーに座った。
テーブルに置かれた紙に、は少しだけ戸惑いながら鳥の絵を描いてゆく。
「・・・こんな、の・・・だけど・・・」
「・・・、あー、あー!鳩か!」
嬉しそうにが描いた絵を眺めてヒューズは言った。
お世辞にも上手いとは言えないその絵を大事そうに手に取ると、ヒューズはに顔を向けてもう一度大きく笑う。
「なあ、。明日も来るといいな、コイツ」
「・・・・」
はゆっくりと頷いて微笑み返す。
心の中で、そうしたら今度はもっと上手に絵を描いてヒューズに見せようと考えた。
笑ってもらうのではなく、
ヒューズを笑わせたいとこのとき初めては思った。
そして一方的に抱いていた感情は変化を遂げ始める。
依存は愛へ。
「・・・・どうだロイ。美しい昔話だろう」
「・・・何故私にそんな話をする。嫌がらせかね、」
「ああ?仕事がはかどるようにとっておきの話してやったんだ、感謝しろ」
「・・・・」
寧ろ落ち込んで仕事どころではないのだがね。
ロイは溜め息をついて、今更ながらに親友の手強さに憂いを抱いた。
L'amore immaturo dice: "Ti amo perche' ho bisogno di te".
L'amore maturo dice: "Ho bisogno di te perche' ti amo". (E. Fromm)
ラモーレ インマトゥーロ ディーチェ:"ティ アーモ ペルケ オ ビゾンニョ
ディ テ"
ラモーレ マトゥーロ ディーチェ:"オ ビゾンニョ ディ テ ペルケ ティ
アーモ"
未熟な愛は言う:“あなたが必要だからあなたを愛す”
成熟した愛は言う:“あなたを愛しているからあなたが必要”
...............................................................................................................................
ヒューズは今でもが描いた絵を大事に持っていたり