の集中力は、エドに引けを取らない。
一度何かに完全に意識を集めればそれは完全な外界との遮断の壁を作り出す。
ただエドと違うのは、はソレを完全にコントロールするという事。
そして集中する時間が短時間だという事。
ものの十数分で三冊の本を読み終える。
凄まじい速さで頁を捲り、だからといって情報は漏らされず
ことごとく脳に叩き込まれる。
今日のこの日も。
は図書館で何十冊目かも判らない本を読み終えて、閉じた。
すぐ横の大きな窓の外は晴天。
しかし薄暗い図書館の中に光は浸食しない。
心地良い暗さと懐かしいような紙の匂いに、は深呼吸をする。
息を深く吸って、そして。
吐こうとして、止めた。
「・・・・鋼」
喉に止まった空気は、その名と共にゆっくりと吐き出された。
少し離れた位置で、エドは机にうつ伏せて寝ている。
光の浸食。
エドの髪に光は招かれて淡く反射していた。
音を立てないように立ち上がってエドに近付き、起きる気配を見せないその姿を見下ろす。
きれい。
はそう思う。
綺麗な色。大好きな色。それは他でもないエドの色で。
自身にとって不可侵だったその色が、他の誰よりもエドに似合うと思う。
(・・・そりゃあ、随分と)
は自分の思考を整理して苦笑いした。
随分と自分はこの子供に囚われてやしないかと、考えたら途方もなく自分が愚かに思えたのだ。
(そんなもの、赦されるはずがねえだろう?)
閉じられたエドの目蓋の下の眼球が動くのを眺めて、そっと指先で触れる。
「・・・・」
そして。
「・・・・っ、ヤベ!寝てた・・・・!」
「寝てたな」
数分後、ガバリと顔を上げてエドが大声で叫んだ。
は開いた本に視線を落としたまま小さく呟き返す。
「!」
エドは安堵したようにに駆け寄る。
そもそもエドはここに、に会いに来ていた。
そして本に集中するを邪魔すまいと離れた場所で待っていて、寝てしまったのだった。
近付いたエドにはやはり視線を向けない。
頭の中では「だからお前は何で人の名前を叫ぶんだ」と考える。
それはまるでの存在を確認するようで、そしてエド自身の存在をに刻むようだった。
はフと柔らかく笑った。
そんな馬鹿のためにと本を漁り、こんな風に時間を過ごす自分はきっと愚かなのだろう。
「偶には悪くないさ。」
「・・・?」
の独り言に首を傾げるエド。
そのエドの頬に視線を移しては意地悪く笑った。
眠り姫改め、眠り王子の頬に落とした口付け。
その事実を知ったらこの生意気なマセガキはどうするだろう、なんて。
どんな反応をするだろう、なんて。
考えて。
「・・・?」
「気にするな」
誰かを特別に思うことを。
誰かに囚われる事を。
赦されなくてもいいから、どうか。
どうか今は見逃して欲しいと。
信じてもいない神様に、静かに。
祈った。
L'amore e` la piu` nobile debolezza dello spirito.
ラモーレ エ ラ ピゥ ノビレ デボレッツァ デッロ スピーリト。
「愛は、最も高貴な精神の弱さ。」
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・・・あれぇ?日常を、書いてるつもりが。