土方は不機嫌に煙草をスパスパ吸っている。
場所は自室の窓際で、窓から入る風はまだ少しだけ肌寒い。

いつも不機嫌そうな顔をしている土方だが、
今日はこの顔を誰にも見られたくないと思って部屋に篭っていた。

なんたって原因が惨めな感情だったからだ。

聡い沖田は早々に気付いていたが珍しくからかいもせず一人で見回りに出て行った。

というのも沖田にしてみてもとても馴染みのある感情で、
からかえば自分も傷つくからである。

どんなに言葉を並べても自分に返ってくる。それは、耐えられない。

その感情の名を、嫉妬という。子供染みた束縛願望と独占欲の産物。
相手はもう随分と長い間心奪われたままの、だった。

最近のは目に見えて表情を変えた。柔らかさが滲むような、幸福そうな笑顔。
それを誰が引き出したのかは考えたくもないけれど、考えなくても分かりきった事で、
土方は何十本目かの煙草を灰皿に押し付けた。

俺に向かう微笑ではないのなら消えてしまえ。
俺の隣で手に入れる幸せ以外なら、捨ててしまえ。
そんな風に一瞬でも思ってしまう自分が情けなく醜く思える。
けれど、嗚呼、だけれど。

「俺以外の名を、そんな声で呼ぶんじゃねえよ・・・!」

銀髪の名を呼ぶあの声。
不覚にもそれを耳にしたその瞬間は気が狂いそうだった。
今すぐ攫ってしまおうかと伸ばしかけた腕は、
一欠けらだけ残っていた理性が食い止めたけれど。

いつか本当に狂って無理矢理にでもを奪うのではないかという恐怖は一種の甘い誘惑。
そうなってしまえばきっと今よりずっと楽だ。
けれど土方は一生そんな日は来ないのだと知っている。

今日も明日も明後日も、このギリギリの境界線を足元に見据えて生きてゆくのだろう。
前に踏み出せなくとも退く事は許せないし、引き返せはしないのだ。

灰皿の中の煙草は折れ曲がっても火は消えず燻ぶっている。
きっとこんな風に恋心は消えないまま、ずっと、いつまでも俺は。

そう思って泣きたくなったが、唯一あの腕の中ならば泣けるだろうと思っていた存在はもう他の奴のものになってしまったので、少なくとも、もう自分は泣く事は無いのだろう。

土方はそう考えて悲しそうに、笑った。