が非番の日に朝早く自室を出たのは珍しい事で、 そのせいなのかは分からないがその日は朝から曇っていて太陽も見えない。 雨が降りそうだなと空を見上げれば、意外と眩しくて目を細めた。 太陽は強いな、なんて考える。 そこに知った気配が現れては視線をゆっくりと下ろし、微笑んで振り返る。 背後に立っていたのは恋次だった。 「・・・お、はようございます」 何かに動揺したような恋次の様子に首を傾げながら、しかし興味も湧かなかったので 「おう、おはよ」とだけ返す。 恋次はひっそりと安堵して気付かれないように短く息を吐いた。 本当は、空を仰ぐの儚さに言葉も失い立ち尽くしていたのだけれど。 (死んでも、言えねえ) この想いに止めを刺すのは悲しすぎるから。 誤魔化すように恋次は手にしていた一輪の花をに差し出した。 「頼まれてた花です」 「おー。さーんきゅー」 「何に使うんです?」 恋次がに花の調達を頼まれたのは数日前。誰かに贈るにしてはたった一本という少なさだ。 「うーん?んー・・・土産」 「土産・・・女、ですか」 「はっはっは、妬いてるのかね素敵眉毛君」 「だからこれは刺青だって何度言えば・・・!」 「墓参り、の。土産」 「・・・・あ」 (海燕副隊長の) にっこりと微笑むを前に恋次は言葉に詰まって、視線を泳がせて顔を伏せた。 わしわしと頭を掻いて「すみません」と呟く。 はきょとんとして、それから恋次の額にでこぴん一発おみまいして笑った。 「んだよ、可愛い奴ッ!」 ガハハと豪快で男らしい笑い声が朝の空気に響き、染み渡って広がるよう。 ひとしきり笑って、それからは再び空を仰いだ。 今は遠い太陽を焦がれるように。 「でも気にすんなよ、そういう辛気臭いのアイツ嫌いだしな」 人らしい死に様を許されなかった海燕を思い出すための、海燕の名を刻んだ石。 あの重石は残された者への慰めだとは思う。 時に花を手向けては、声を思い出し笑顔を甦らせる。 それは懐古であり感傷。 恋次は無表情に近い顔でを見詰た後、口を開いた。 「じゃあ、墓には。何て語りかけるんです」 「・・・・ま、そうだな」 安らかに眠れだなんて言いはしないのは、確かで。 怒ったり笑ったり、そんな風に動き回る姿が一番似合ってた。一番好きだった。 太陽みたいだとずっと思っていた。 「気長に待ってろ、かな」 できるだけゆっくりおいでと囁いたあの声は、今も耳に残っている。 恋次に顔を向けぬまま言ったは今まで見たこともないような繊細な目をしていた。 指先で触れるだけで崩れる硝子細工のような、目を。 |