カランコロンと下駄を鳴らしながら店のシャッターを閉め、 それからそのままガシャリと背中を預ける。 帽子の鍔で隠れた瞳を閉じて腕組をし、浦原はただ待っていた。 待つ事しかできないわけではないのにそれでも待つ事しかしない。 浦原が待っているのは、つい先刻体だけを置き去りに戦いに行ってしまったである。 自由を愛し自由を掲げ、それは自分の我儘だと言ってのける愛しいヒト。 今の浦原が、必要なら世界を敵に回してもいいと思うほど心奪われる相手である。 今もなお残された“敏感すぎる”感覚を研ぎ澄ませ、 浦原は夜の暗闇に紛れて遠く蠢く幾つかの霊圧を捕らえていた。 の霊圧はそれでも頻繁にその網からすり抜けては不意に現れるので、 浦原は苦笑いを零しながらそれを追う。 砂上の蜃気楼を追うように、何度も手を伸ばして。 (普段のアタシと貴方のようっすね。) そんなことを考えながら。 「店長」 「おやジン太。どうしたの?」 「どうしたって、そりゃこっちの台詞だろ」 ひょっこり顔を出したジン太に口元で微笑んでみせると、ジン太は不機嫌な顔になり親指で店内の方向を指した。 「飯くらい食えって、テッサイが」 「・・・うん、そう。アリガト」 礼を言っても動く気配は無い。 ジン太は元より説得できるなどとは思っていなかったので早々に諦めて背を向けた。 そのまま去ろうとして、何かを思いついたように足を止める。 振り返れば浦原は再び目蓋を閉じていた。 恋焦がれるように。 「いっつも」 ジン太は無意識に呟いた。 ゆっくりと浦原の視線が向けられると途端に気まずくなって目を逸らす。 「いっつも、どうして待ってるだけなんだよ」 「・・・」 「どうして、追いかけたり止めたりもしないんだよ」 呼び止めて腕を掴んで、どこかに閉じ込めて、繋ぎとめて、何からも隠して。 そうしてしまえば。 「サンはそれでもきっと逃げるよ、ジン太。どんな頑丈な檻を用意しても。」 浦原は悟ったように返して情けなく笑った。 その表情を見てジン太は深く息を吐く。 「同じ事考えたことあんだな」 「そりゃあもう」 「それで待つことにしたってわけかよ、店長は」 「・・・そ」 浦原はそっと自分の足元を見下ろし、月明かりが作り出した自分の影を眺め もしも誰かに「それは罪だ」と言われても自分はこの地に影を落とすのだろうと考える。 (さん) あなたがこの乾いた街のこの場所へ、いつでも帰ってこれるように。 24時間体制で腕を広げて。 暫く浦原の横顔を眺めていたジン太は、複雑そうに笑って店内に姿を消した。 本当は一緒にを待とうかとも考えたが、野暮のような気がしたのだった。 |