「どう、したんだ。腕」
「ああ、ちょいとヘマしただけでさァ」

街中でいつも通り“偶然”総悟と出会ったは、
暢気に返された言葉に涼しげな美貌を少しだけ険しくした。


注がれる視線の先には総悟の腕がある。
鮮やかに刀を操るその腕には、今日は真っ白な包帯が巻かれていた。


「そんな腕で、見回りか」
「この程度で休み取れるほど人材潤っちゃあいねえんです」
「ふ。普段真面目に仕事をしているようには見えなかったが?」

「そいつァ、アレだ。能ある鷹は、ってヤツでさァ」



総悟は柔らかく笑ってそう言いながら自分の胸の辺りにじわじわと広がるものを感じている。
とこうして穏やかに交わす会話が、時に泣きたくなるほど幸せに思う。

けしてそんなことは口にしたりはしないし、伝えようとも思わないけれど。

「せめて他の誰かと一緒だった方が良かったんじゃないのか。」
「・・・そう思うなら、さんが付き合ってくだせェ」
「ああ、わかった」

総悟の言葉には間髪入れず頷いた。

がそうする事は分かっていたので驚きはしなかったが、
それでもやっぱり嬉しいやと総悟は思う。

だってこんな風に接する事ができる相手は他に居ないし他に要らない。
隣に並んで立ったにこっそりと微笑んで歩き出した。

「しかし、初めて見たな」
「なにがです?」
「お前が怪我をしているところを」
「そりゃあ俺は強いから」
「けど」

痛かっただろう。
は心底心配そうな目をして、そっと総悟の腕に触れた。

「怪我が怖くちゃ、この仕事は勤まりませんぜ」
「馬鹿者」
「・・・」
「俺の心臓も、痛い」

なんだってこの人はこう、言って欲しくて、でも言って欲しくない事を言うのだろう。
総悟はそう考えて空を見上げる。
太陽を背負う鳥が優雅に泳いでいたので、微笑んだ。

「確かに馬鹿かもしれねえや」

そっとの腕を外して徐に包帯を取り腕をブンブン振り回すと、
見る間にの表情が変わってゆく。

「・・・な、な・・・」

唖然として言葉を失うに総悟は子供のように笑ってウインクひとつ。
悪びれた様子も無く言ってのけた。

「甘えているんでさぁ、ただ、単に」

例えば俺が鳥だったとしたら、飛べないふりをして。