「ねえ、ちょっとはこっちを向いてくれてもいいんじゃないの?」
「五月蝿い黙れ消えろ」
「わーお。不機嫌だねぇ」
「・・・誰のせいだ」

天気のいいある広場の片隅、暖かい陽射しに護られたベンチでは珍しく新聞を読んでいた。
世の中の動きなど元々興味は無かったが(自分はそこに何の繋がりも無いと考えているので)、一種の気まぐれだった。
自分から目的も無く陽の下に身を置くのも気まぐれ。
(滅多な事はするもんじゃねえな)
気付いたら隣に陣取るエンヴィーが居て、は心底そう思った。

「ちょっと、なに?オレのせい?こんなに愛してんのにさー」
「・・・ハッ、脳ミソ腐ってんじゃねえのか。」
「それならそれでいいんだけどね、オレは」

いっそそっちの方が清々しくもある。
クリアな脳で抱く愛のほうが恐ろしい。

そしてそんな愛を語ってが信じてくれないうちはまだ救いがあるとエンヴィーは思う。
自分が為してきた事と為してゆくことを呪わずにすむから。
清廉潔白な、そんな自分でありたいなんて、そんな世迷言を思い出さずにすむから。

「ねー
「・・・ああ?・・・つうか、お前いつまで居る気だ」
「酷っ・・・ねえ、じゃあさ。交換条件といこうよ」

エンヴィーは言いながらの腕に絡みつくように手を伸ばした。
はそれを顔で拒絶するが、体は動かさない。

「抱かせて?」
「死ね」
「じゃあ抱いて?」
「二回死ね」

お望みなら女になってやってもいいよと笑うエンヴィーには冷たく視線を寄越す。
新聞をバサリと閉じて懐に手を入れた。
煙草の箱を探しあて1本抜き取るとそこで手を止める。

「男も女も抱くも抱かないもねえな。俺の手はそういう風にできてる。
 ・・・できてせいぜい、煙草を持つか、武器を持つか、若しくは」
 
人の血を被るか。
誰かを抱くなんて妄想は胸糞悪いだけ。

ゆっくりと煙草を咥えるの手と唇を交互に見詰めてエンヴィーは口元に弧を描く。
すかさず煙草を奪い取り、開いた唇に自分の唇を深く重ねた。互いの歯がぶつかる。

く、との喉が鳴るのを聞きながら目蓋を閉じて、
互いの脳が腐ってしまえばいいと願った。

このおぞましい世界にたゆたえど、なお、愛を囁く最後の手段として。

「っ、に、しやがるこの変態がァ!!」

は思い切り叫んで思い切りエンヴィーの頬を殴った。ぐーで。
ペ、と地面に吐き捨てるのは自分の唾液とそれに混じったエンヴィーの唾液である。
歯がぶつかった拍子でどちらかの唇が切れたのか血も少し混ざっていた。

「いってー。」
赤くなった頬を擦って、エンヴィーはニコリと無邪気に笑った。