皆でバカ騒ぎするのも楽しくて好きだけれど、
二人きりの時間が実はこの上なくドキドキで幸せだっていうのは、秘密。




日曜の昼を少し過ぎた頃。
マンションの一室、表札には何も書かれていない玄関の扉の前に啓吾は立ち尽くしていた。

ドクドクと大きく鳴り響く自分の心臓をどうにか抑え、
震える指先でインターホンを押そうとするのだがどうにも勇気が足りない。

(うおおー、ここまで来たんだ、覚悟を決めろ浅野啓吾!)

拳を握り心の中で自分を叱咤しても、
この部屋の中に入ればとふたりきりだと考えただけで、もう駄目だった。

どんな会話をしたらいいのか、そもそもどんな顔をすればいいのかすら分からない。
実は今日着てきた服だって何時間もかけて選んだくらいだった。

真っ赤な顔で啓吾がうんうん唸っていると、目の前の扉がバン!と開いた。
慌てて顔を上げるとそこには不機嫌な顔をしたが立っていて、
思わず数歩後退る啓吾を完全に据わった目で睨み口を開く。

「ドアの前で突っ立ってるだけって変質者かオマエ!通報されるぞ!」
「あ、いや、だって」
「だってじゃねえっつうのー。」

無造作にの手が啓吾の手を掴み、その一瞬啓吾の心臓は止まった。
息も詰まって、目を見開き硬直する。

「なんだァー?どした?」
ぐい、と腕を引っ張っても動かない啓吾に怪訝な顔をしては振り返った。

「いや、手・・・」
「なんだよ」
「男同士で手とか、繋がないだろ・・・」
「嫌なら振り払ってもいいんだぜ?」

啓吾は泣きそうになって眉を情けなく下げた。

こいつ卑怯だ。
できないと知っていて。
俺が恋をしていると、知っていて。

俯く啓吾を前には何もかも見透かしたように笑って言った。

「知ってる。だから手、繋ぎたいって思ったんだよ」
「・・・・・・ッ」

繋いだ指先から熱が込み上げて啓吾は自分の顔が熱くなるのを感じた。
うわ、と漏らして片手で顔を覆うとが可笑しそうに見上げる。
それにさえ視線を返せなくて啓吾は更に顔を赤くして呻いた。

ドキドキで幸せなのは秘密。
秘密だったのだけれど、どうやらとうの昔にバレていたようで。


「あ、熱い・・・」
「今日そんなに暑いかあ?」
「・・・・おお」

灼熱。
まるで、真夏のような。