応接室の窓辺で見下ろす景色には薄紅色の花びら。 地面を徐々に覆い隠す散り際の美しさは壮絶で、壮大。 雲雀は窓枠に突っ伏してそれをもう数時間と眺めていた。 「綺麗やな」 突如降った声と共に視界の端に白い手が侵入して窓枠に触れる。 雲雀は視線を向けないまま口を開いた。 「・・・へえ。君にもそういう人間らしい感情があったんだね、美化委員」 「なんやそれ」 声の主、の顔を見なくても雲雀には分かっていた。 どんな表情をしているかくらいは簡単に。 「・・・まあ、悪くは無いけど」 「それはどの台詞に掛かる言葉や」 さほど興味も無さそうに呟いても窓の外をただ見下ろす。 二人の間の沈黙は常で、日常で、居心地の悪いものではない。 風の音。木々の葉が触れ合う音。遠くに響く生徒の声。 この世界のどこかに中心があるのだとすればきっとここで、この場所なのだと確信する。 少なくとも雲雀にとってはそうだった。 雲雀は一度深い瞬きをしての顔を見た。 「明日。」 「・・・ああ?」 「明日花見に行かない?」 「花見てお前」 「・・・何」 「似合わへんなぁ」 は軽く笑いながらゆっくりと瞳を動かし、ここで二人は今日初めて視線を合わせた。 雲雀は「フン」と鼻で笑うけれど視線は離さない。 「これでも毎年してる。勝手な想像で物事を測っていたら痛い目に遭うよ」 「あー。さよか。・・・ええけど、ほんなら彗に弁当作ってもらおか」 「・・・」 「そんな睨まんでも分かっとるわ、阿呆。・・・ふたりで花見、やろ?」 柔らかく微笑むの表情は、いつもの「うそ臭さ」が無い。 それに満足した雲雀は微かに口元を優しく象って視線を外した。 心臓の奥、誰にも見つからない場所に敷き詰めた花の底に埋まって囁く言葉は。 「Io voglio monopolizzarLa.」 「あん?何か言うたか?」 「・・・別に」 今は誰にも、秘密。 Io voglio monopolizzarLa. 「君を独り占めしたいと僕は願っている」 |