それは式神の城事件が収束を迎え、 ねじれた城事件が始まるまでのほんの僅かな安息の日々。 「刑事山さん」としての役目を終えたロイはいつ用意したかも忘れた“部屋”に戻った。 一人の、部屋で。 鬱陶しい衣類を脱ぎ捨て上半身裸のままベッドに倒れこんだロイは顔を覆った。 開け放っていた窓から、蒸し暑い空気が流れは入ってくる。 掌をどけてその方向を見てみれば、窓の枠に腰掛けるの後姿が眼に入った。 きんいろ。おそろいの髪の色。おそろいの闇を孕んだ、遠い双子。 下手をすれば同属嫌悪を抱きそうなこの相手をロイは好きだった。 「・・・来てたのか、」 「ああ」 が伸ばす腕は遥か遠い紺の空に溶けて、月の光を躱し赤い星へと、向かう。 視線も想いも同じだった。は今もたったひとりにしか心を譲らない。 故にその横顔は儚い。 「天国は高いな、。僕は今更手を伸ばしても届きそうに無いよ。」 ロイはゆっくりと立ち上がり窓に近付いて背後からを抱き締めた。 そのまま首筋に顔を埋めるロイにせせら笑っては囁く。 「だったら、清く正しく生きるか?」 「それこそ今更だ。今日も明日も明後日も、生きてる限り僕は僕だろうさ」 「同感だな。大事な奴の手さえ届けば、それでいい」 その発言には同感できずにロイはスルリとを手放しベッドに戻った。 そして一つに纏めていた髪を解くと頭を振る。視界を掠める金色。 (だってコウは、どんなに愛しても歯牙にもかけてくれない。) 呪いたくなるような現実にロイは苦笑いを零した。 セプテントリオンに身を置くのもこうして回りくどく手を貸すのも全てはあの友の為に。 似ているのに似ていない自分と。その尤もたる違いを垣間見る。 天国に手を届けようとする願いそのものが傲慢だ。ロイはそう思う。 自分はもう思い出せないほど人を殺してきた。 きっとロクな死に方もできないだろう。 けれど願うのだ。 天国を望んでしまう。 だから友を呪ってしまう。 報われないことを、嘆いてしまう。 のように、それを信念として何の見返りが無くても躊躇わないような、そんな強さは持っていない。 結局最後に独りになるくらいなら、天国への道を塞いで二人この穢土でもがき生きてゆきたい。 そう思うのははたして罪悪だろうか。 だがは世界の何もかもを嘲笑う横顔で言い放つ。 「だからお前は万年失恋忍者なんだよ」 ロイは笑おうとしたけれど笑えずに、ベッドの上に仰向けになって天井を仰ぐ。 そして微塵の容赦も無いこの男に嫌がらせ代わりに真っ赤で長い襟巻きを贈ろうと考え、やっと笑った。 |