「拗ねるな」
「拗ねてねえっ!」

くっくっく、と心底可笑しそうに笑うに背中を向けたまま、エドは頬を膨らました。
場所は東方司令部の宿舎の一室である。

エドは、拗ねてなんかねえよ、ともう一度小さく呟いて目を伏せた。
拗ねてるんじゃない、嫉妬しているんだ。冷静にそう思う。

嫉妬の相手は自分の弟。
その事実がエドを落ち込ませる。


今は宿舎を出て買い物に向かったアルを相手に会話をしていた、の眼差し。
それを思い出しエドは歯噛みをした。

はアルに優しい。
物凄く分かりやすく優しい。
差し伸ばす手も投げかける言葉も全部が優しい。

「・・・、くそっ」

そこまで考えて頭を掻き毟る。
自分にはどこまでも意地悪なが何だか憎らしく思えた。

「だいたい、は・・・!」
「エド、俺のこと好きってわりには分かってねえなお前」
「・・・え、ええ!?」

耐え切れず半ば八つ当たりで捲くし立てようとしたエドの言葉を遮り、
は意地悪な笑みを湛えたまま腕を伸ばした。

指先が向かう先、エドの柔らかな頬に触れるとそのまま摘まんでギュイー!と引っ張る。

「いでででで」と唸りながらエドは、
自分に伸ばされるの手はやっぱり優しくないと思った。

ムッとして言ってみる。

「いひわゆ」
「ああン?何だって」

意地悪、意地悪、いじわる。
分かってるくせにそんな風に笑うだけだなんて。意地悪だ。

とうとう本当に拗ねだしたエドを前に、はゆっくりと腕を離す。
二人の間にあるテーブルに頬杖を着いて上目遣いを見せた。

「だから分かってねえってんだよ、お前。俺は好きな子を苛めるタイプだ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

エドは物凄い勢いで振り返って言葉を失った。
頭の中が真っ白になる。

好きな子、というフレーズがその真っ白な脳ミソでぐるぐると回っていた。


大好きな
ずっと遠い人だと思っていた。

呆然とするエドの右手を取り、身を乗り出しては目を細めエドの掌に頬を摺り寄せた。
ドクンとエドの心臓が高鳴る。
固まったままのエドには苦笑して口を開いた。

「分かったか?」

間近に迫ったの呼吸はほんのりヤニ臭く、それがあまりに生々しかったので
エドは咄嗟に顔を逸らし、呼吸を整えた。

限りなく永遠に近い長さだと思っていたこの距離は、
なんのことはない、どちらかが踏み出せばあっという間に詰めてしまえるものだったのだ。

エドは可愛らしく、拗ねたように頷いて見せた。