「いいかー神楽。愛っていうのはなァ」
「銀ちゃんいい加減ウザいアル」
「・・・・・・・・・」

「よく聞け新八、この世の中で最も素晴らしい感情、それが」
「ハイハイ分かりましたから退いて下さい、邪魔です」
「・・・・・・・・・」

子供二人に体よくあしらわれて、大人の男である銀時はソファーにぐったりと体を預けた。

可愛くねえのー、とわざと大きな声で言ってみれば、
「可愛くなくて結構!」とすかさず返される。

天井を見上げれば見慣れた風景で、締め切った窓の外からはしとしとと雨の音が聞こえる。

「会いてぇなァー」

銀時が思わず漏らした本音を新八は聞き逃さなかった。
普段飄々として自分の内側を滅多に悟らせない銀時の、どうしようもない本心。
誰に会いたがっているかなんて聞かなくても分かる。

なんだかやけに可愛らしく思えて微笑むと、
銀時はそんな新八の視線に気付いて居心地が悪そうに体を揺らした。

「あんだよ、文句あんのか」
「まだ初日でしょうが。さんが戻るのは明後日、今からその調子でどうすんですか」
「・・・泣きそう」

銀時は両手で顔を覆って泣く真似をしてみせる。
新八は呆れながらも壁にかけてある日捲りカレンダーに目を向けた。
が社員旅行に出発したのは今日の朝早く、帰ってくるのは二日後である。

「明後日、か」

銀時に聞こえぬように呟いた新八は、
自分も大概どうしようもないなと苦笑いを零した。


新八が買出しに出て行くのをソファーの上で見送った銀時は
そのままゴロンと横になり近くの窓から見える空を仰いだ。

この角度からは電線さえも見えず、ただ純粋に青だけが広がる。
雨はいつの間にか立ち去り、雲は晴れて、雨上がりの独特な香りが鼻腔を擽った。
これから一週間は晴が続くとお天気お姉さんが言っていたのを思い出す。

「会いてえ、

声が聞きたい。
目蓋を閉じて思うのは、そんな事ばかり。

「何か用でもあるのか?」
「・・・・ッ!?」

突如頭上から降った声に、銀時は限界まで目を見開いた。
急激に太陽の光を取り込んで一瞬目の前が真っ白になる。

眉を顰めながら視界を定めれば、そこに居たのはだった。
両手に大きな紙袋を持って不思議そうに銀時を見下ろしている。

「お、おま・・・お前、どうして・・・旅行は?」
「ああ・・・いや、行ったのは行ったんだが、その」
「?」
「・・・・・会いたく、なって」

土産だけ買って戻ってきた、と拗ねたように言うのは照れている証拠。
銀時は無言で腕を持ち上げて、を抱き寄せる。
二つの紙袋が床に落ちて、少しだけ大きな音を響かせた。


この想いは宇宙規模。
まるで三流ドラマの安い台詞のようだけれど、悪くない。
空は晴れてどこまでも青く、さあ、これを期に。


行けるとこまで行ってみようか。