その日の万事屋は平和そのもの。
仕事の無い銀時は、ソファーの上でが届けた新聞に目を通す。

「歌舞伎町の男娼宿を謎の団体が襲撃、男娼が一命行方不明だァ?世も末だなオイ」
「そんなもんが歌舞伎町にあったんですか」
「新八、ここに無いエロがあると思うか」
「・・・それで、新撰組が動いてるんですか?」
「いや、んなデカい騒ぎにはならねえだろ。元々営業許可無くやってた悪徳宿みたいだしな。」
「でも人一人行方不明なんでしょう?」
「それこそ大した事件になりゃしねえよ。国の要人でもねえ限り、んなのにイチイチ構ってたら連中過労死すんぞ」
「・・・・・・・・・・もし」
「あん?」
「もし攫われたのがさんだったら」
「・・・そりゃ」

大事件だな。

銀時がヘラリと笑って見上げた空の遥か遠く、他の星に紛れて漂う戦艦隊があった。


音の無い漆黒の世界で、その艦隊は優雅に泳いでいる。
名を「快援隊」。坂本辰馬の私設艦隊である。
歌舞伎町で話題の「謎の団体」とは、彼らの事だった。

そして唯一攫われた男娼を前に、坂本は破顔した。

「アッハッハ、うまくいったのー。祝杯じゃあ、酒を用意せい!」

男娼は呆れたように溜め息をついて坂本を見上げる。
性別を越えて揺さぶられる絶対的な色香が全身から滲んでいるような、そんな男だ。
坂本は彼を愛していた。そこに深い理由は無かった。
理由は要らないと言ってしまえるのが坂本という男である。

「呆れました・・・まさか、本当にこんな事をするなんて」
「何じゃ、。おんしゃが言ったぜよ、“僕が欲しければ金で買うか、攫え”と」
「金で買う選択を何故しなかったんです」

黒髪で、赤い着流しを着たはサラリと言い捨てた。
自分を金勘定でしか判断できないわけではなかったが、その方が余程簡単だったのは明白だ。
危険を冒さずに、目的を成せただろうに。
坂本はの頭をグリグリと撫でて、サングラスの向こう側でにっこりと微笑んだ。

「阿呆。金で買った男に愛を囁いちょったらワシはあの屑共と同類じゃ」
「・・・見返りは、必要無いとでも?」
「・・・ああ、要らん。お前の意思で、ワシを選ぶ以外は要らん」

は言葉を失った。


過去に宇宙を目指し飛び立った男は、なんのことはない、いつでも地上を見下ろして愛を落とすのだ。
そっと降らせるように、甘く、甘く。

「好きじゃ。おんしゃの人生に名を残せるんじゃったら、人攫いの真似事も、悪くない」

ほころぶてのひらの、隙間から。