「頼んでもいないのに」
「五月蝿いわ。・・・綺麗やんか」

雲雀は冷たい視線でを捉えている。
背中を向けたはそんな視線を完全無視して花瓶に花を生けていた。

今日の花は色と香りの鮮やかな金木犀。
応接室は一瞬でその香りに包まれる。

「・・・・匂いがキツイ」
「俺は好きやけどな、この匂い」
「別に、僕も嫌いじゃないよ」
「・・・なんやそれ」

はこうして数日置きに応接室に現れては、我が物顔で花を飾ってゆく。
それに対し雲雀は軽い文句は言うものの実際に手を出して止めようとはしない。

止めたところでが素直に言うことを聞くとは思えなかったし、
未だに意図は掴めないし、なにより雲雀は悪い気はしていなかった。

それは、という人物は突拍子もなくあらゆる所に現れるが、
会いたいと思って会いに行っても滅多に会えない男だからだ。

だから雲雀はが飾った花を眺めているのが好きだった。
自分以外誰もいない時にだけコッソリ、何時間でも飽きずに眺めている。

一生誰にも教えられない雲雀の最大の秘密ではあるけれど。

花瓶に生けた花を満足そうに見詰て小さく頷いたはくるりと雲雀を振り返り
今日初めて視線を合わせて話しかけた。

「せや、特別リクエスト聞いたるわ。次の花は何がええ?」
「・・・・・・別に何でも」
「ものごっつ臭いヤツ、チョイスしよか」

何が気に食わなかったのか不機嫌に言ったに、雲雀は笑って見せた。
そしてゆっくりと口を開く。

「会える口実だ、なんだっていい」

ただの気まぐれで口にした言葉だったけれど紛れもなく本心で。
だからこそ言葉を失ったの反応がやけに愛しい。


これはきっと束の間の夢。

明日には夢も覚めていつもどおりの日常が戻ってくるのだろう。
お互いに剣呑な空気を纏うような、そんな日々に。

それでも優しく、心に響く。
どこか仄かに甘い香りを漂わせて。