どうしてだっただろう、と、エドはふと思った。


思考の隙間に浮き出た疑問は瞬時に脳を支配して、
それまで本の頁を捲っていた手が止まる。


どうして自分は、にこんなに心奪われているのだろう。


確かに出逢った当初は美しい人だと思った。
揺るぎの無い強さを持つ人だと思った。


けれど知れば知るほど、は弱く、脆く、そして卑屈で傲慢で自己中心的で。
それらは外見の美しさだけでは隠せないほどだ。

優しい言葉を掛けられる事は少なく、寧ろ差し出した掌を手痛く払いのけられる事ばかりだったし
容赦なく傷つける言葉を浴びせられたことはもう数え切れないほどなのに。

それでも、どうしても愛しくて。

「・・・・わっかんねえ」

エドは今までに無いほどの謎を目の当たりにしたかのように、小さく呟いて頭を抱えた。
冷静に考えれば考えるほどに好意を抱く自分が信じられない。
信じられない、のに、拭う事もできない。

いとしいという感情が浮遊している。
掴もうとしてもするりと逃げるのに、その中身を明かしはしないくせに、目の前に在り続ける。
目蓋を閉じても眩しいくらいの光を放って気付かない振りを許さない。
探求と追求を喜びとする科学者の心理を擽る絶妙の距離で。

「いや、悪くない気分だけどさ」

エドは独り笑った。幸せなんじゃないかとさえ思った。
こんなに甘い謎にこれからを費やす事ができるなんて。

分からなければ徹底的に一つづつを細部まで解明してゆけばいい。単純な結論が酷く心地いい。

光が見えなくなるまで、幸せは続くのだ。なんと容易い永遠。


「なにひとりでニヤニヤしてんだ、気味悪ィ。」
「・・・ッ、!?」
「遊んでやろうかと思ったけど、やめた」


たまには、まあ、苦味もあるけれど。