「銀さん、銀さん!ちょっとアンタ、邪魔ですよ」

手拭い片手に言い放った新八にソファーの上から視線を投げかけ銀時は小さな欠伸を一つ。
もう世界は夜に覆われて、鳥は眠りに入る時間だ。
それなのに新八はまだ家路に着かず、あろうことか掃除洗濯皿洗いをこなしている。

「あのよォ、新ちゃん?俺がいつそんなかーちゃんみたいなことしろって言ったよ。」
「アンタがしないからでしょうが。大体、それで僕まで放っておいたらさんがやろうとするのに」
「それが目的なの。新妻みたいでオイシイだろーが」
「・・・この、変態」

嫌悪感を露ににらむ新八を銀時は鼻で笑いあしらって上体を起こした。
腹の上に乗っていたジャンプがばさりと音を立てて落ちる。
そして笑った。子供のような裏の無い笑顔だ。

大人としてしか生きられなくなった男が垣間見せる少年の名残、だ。

「バーカ。恋や愛を正気で語れるうちは、まだまだ甘えよ」

顔を赤くし逃げるように帰り支度をする新八を暫く眺めてから、銀時は窓に腰をかけた。
もう夜風が冷たくなっている事に気付いて新八を振り返る。

「新八ィー。寒かったらそこらの上着使っていいぞ」
「・・・あ、はい、どうも・・・・・」
「・・・ん?なによ」

真顔で沈黙して銀時を凝視する新八に眉間の皺を寄せると、新八は慌てて喋りだす。

「いや!・・・銀さん、そういう風に分かり易く優しくすればいいんじゃないですか」
「・・・あー?・・まあ、なー。そこはアレだ。言葉が邪魔するっつうか、言葉もおっつかねえっつーか」
「アンタ大人でしょうが」
「大人でもなー悩み苦しみ涙したりもするわけよ。もどかしい思いもな。近付くにつれてより頻繁に」

銀時はゆっくりと窓の外、深い紺の空を見上げた。一番星が煌いている。
あの遠い星の光。あれはもう何億年前の光だ。

銀時は遍く星を見上げて不敵に笑った。
あの星はもう、燃え尽きているかもしれないけれど。

それと行き交うようにこの想いがどこかの遠い星につくころも、ここに在るこの俺は燃え尽きはしない。
だってきっと、そうだ。


「けどいつの間にかそれが何よりも幸せになる。正気じゃあねえよなァ。」

僕らは漆黒の宇宙に浮かぶこのオアシスで、手と手を取って踊っているのだろうさ、愛の、踊りを。