その日は珍しく、ロイの執務室にヒューズが訪れ長居していた。 職務に励むロイに背を向けリザが出した茶を啜るヒューズ。 無言が気にならないのは心地よい関係だった。 「そういえば、ヒューズ。先日亡くなった将軍殿だが」 「なんだァ?」 「遺体永久保存らしいぞ」 ヒューズは手にしていたカップをテーブルにカチャリと音を立てて置いて。 「ふん、ざまあねえな」 嘲るように鼻を鳴らした。 ヒューズの“らしくなさ”にロイは眉を顰める。 「名誉ある処置だろう」 確かに尊敬に値するような、そんな人物ではなかった。 人の命を金に換算して切り捨てるような屑だったが。 ロイのその言葉にヒューズはいつもの柔らかい笑みのままで言い放った。 「本当にそう思うか、ロイ」 「どういうことだ」 ここでやっとロイは手元の書類から完全に意識を外してヒューズを見た。 ヒューズはティースプーンを軽く振って、頬杖をつく。 「動かなくなった体はさっさと捨てちまったほうが、オレは、良いって話だ。 魂までも閉じ込められたままな気がする。」 成る程、とロイは笑った。 ならば今回の処置は、屑の魂を永遠に閉じ込めた英断という奴だ。 「ほう、それで体を捨てて、それから?」 自由になった魂は、何を求めて彷徨うのか。 ヒューズはにんまりと微笑んで、告げる。 「当然生まれ変わって、妻と娘の幸せを確認して、の年老いた姿でも拝みにいくさ」 本当は柩さえも必要なく、ただ、土に還れればいい。 そうしてこの地球さえも俺の優しさで満たされてしまえ。 その上に立つ君はどう足掻いたって、幸せにしかなれなくなる。 ヒューズは笑ったままそう思った。 ※遺体永久保存についての見解は個人差、宗教によっての違いがあります。 この小話はそれを非難するものではありません。 |