「悪いけど」
修兵は表情を変える事無く、告げた。
涙を浮かべ去ってゆく女の背中を見詰めながら、乱暴に頭を掻く。
そして懐に入っていた、から貰った飴玉の存在を思い出し取り出す。
水玉模様の包装紙を取って、口に含めば。
咥内に広がる甘い味と香りに、目蓋を閉じる。
「・・・・・甘」
に。
(会いてぇなあ。)
どこか祈るように、修兵は思った。
飴玉を噛み砕いて
カラコロカラコロ。
意外と持ちの良い飴玉を口に含んだまま、修兵は廷内を歩いていた。
会いたいからといって会いに行けるような簡単な性格ではないが、自然と足が向かうような単純な性格ではあった訳で。
無意識に視線を巡らし、の姿を探す。
(・・・・・居た)
以外にもすぐに見つけ、近付こうとしたが。
修兵の足は固まった。
(何だ?・・・あの女)
の向かいには、新米と思われる死神の女が立っていた。
しかも何やら楽しそうに会話して、あまつさえ女はの肩に手を触れたりしている。
(・・・・・)
修兵は勿論、面白くない。
面白くないどころか不愉快で腹立たしい。
初め女に向けられていた嫉妬の念は、すぐさま本人への怒りへと転嫁された。
女がに好意を持っているのは傍から見ても明らかで。
それを知った上で、相手に期待を持たせるような態度をとるに苛立ちが募る。
修兵が、好意を持たない相手はバッサリと切り捨てるタイプだから尚更だった。
自分のようになれ、とは言えない。それは己と他人の境界線を見れない馬鹿の言う事だ。
修兵はそう考えて二人に背を向ける。
理屈は分かってる。頭では、心得ている。自分が口を出せる立場ではない事くらい。
しかし。
ガリン。
修兵の噛み締めた口の中で、飴玉は真っ二つに割れた。
(ムカつくモンはムカつく!!)
鬼の如き形相で再び修兵は達に振り返り睨み付けた。
今度は遠慮も何もなく、大股で近付く。
修兵に気付いたのは、女の方が先だった。
その恐ろしい顔付きに小さく悲鳴をあげ、ついでに己の失態にも気付く。
九番隊副隊長、檜佐木修兵がに惚れ込んでいるというのは有名な話だった。
(というか格隊隊長、副隊長は通じてそうだが)
女としては、コッソリ誰にも気付かれない内にを落としてしまえれば・・・・という思惑だったのだが。
瞬時に己の考えの甘さと修兵の目聡さを理解して女は逃げるように去っていった。
は笑顔でそれを見送って、そのままの表情で修兵に振り返った。
「よ、刺青クン」
「よ、じゃねえ!!」
修兵の目的は元より。女に微塵も意識を向ける事無くそのまま詰め寄りの頭を鷲掴みにした。
「わ、何だよ!」
「いいか、お前はまず他人の好意の程度を見極める能力を身につけろ!公害だ!!」
お友達気分で生殺しじゃ堪らねーんだよ!と、自分の事も含め修兵は怒鳴った。
勿論自己中心的なはムッとして修兵の手を払いのける。
「公害ってあんまりじゃねえの!?折角あの子がくれた飴玉分けてやったのに!!」
「!!??」
修兵は固まった。
未だ咥内に残る、この甘さは、つまり、あの女がに寄越した物で。
確実に完全に恋敵からのソレを、自分は今食べているわけで。
「ムカつくもん寄越してんじゃねえーーーーーーーーー!!!」
ガリガリガリガリガリーーーーー!!!!
大絶叫して修兵は飴玉を噛み砕いた。
それでも口の中に広がる甘さに、それまでとは一転して不快感を抱く。
は暫く呆然とした後、呆れたようにそれを眺め腰に手を当てた。
「落ち着けよ修兵。お前カッチョ悪いぞ、今」
の言うことは尤もだった。
普段の修兵しか知らない人物が見れば卒倒ものである。
「誰のせいだと・・・・!!」
修兵が再び怒鳴ろうとした瞬間。
「ムグ!?」
修兵の口に、の指が突っ込まれた。
そしてその指先に挟まれていた飴玉が落ちる。
「口直し。」
口元を押さえ真っ赤になる修兵を見やって、は引き抜いた指先をペロリと舐めた。
「ああ、因みにそれ俺の舐めかけね。」
「・・・・・・っ!!」
完全に不動になった修兵を愉快そうに眺めて、は足取り軽く去っていった。
その後。
「独り占めはセコいでー!!」
「だから今の段階じゃ俺の舐めかけになってますって!!冷静に考えましょうよ、市丸隊長!!」
どこで知ったのか市丸に追い掛け回される修兵が目撃された。
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白雪さんに捧げる非似偽修兵飴玉物語。
・・・・・・ハイ。一緒に言います。ナンダコレ?
いえ、その、実は・・・修兵夢は初めてでした。しかもこんな・・・・。
これでギャグかよ、これが修兵だって、ああん!?という苦情に怯えてます。
も、なんちゅーていいやら・・・ホントすみません。
そしてリクありがとうございました。どうか見捨てず誉と仲良くしてやってください。