寒くもなく、暑くもなく。
麗らかな日中が舞い戻る。
春が来た。
日番谷は忌々しそうに、咲き誇る桜を睨みつける。
「・・・・どうしたんです?」
義務感と興味で尋ねる松本に、日番谷はチラリと視線を寄越した。
「・・・・アイツの気配が近付いてる」
「アイツ?」
「・・・・・・・だ。」
あらゆる生命が浮き足立つこの時期も、日番谷にしてみれば心労の日々。
そして今日も。
「とーしろー!あっそびっましょーーーーー!!」
春の嵐がやって来た。
You are a storm of spring.
「最近毎日毎日遊ぼう遊ぼう・・・・っ!仕事はどうした!!」
「そんなもんギンとイヅルに押し付けたに決まってんだろー」
日番谷の腕を引っ張り意気揚々に歩く。
その背中を見詰めて日番谷は、市丸と吉良に合掌する。
「この忙しい時に・・・・」
諦めはしたものの、やはり嫌味の一つも言っておくべきだろうと日番谷は呟いた。
最近急に、それまでは顔見知り程度だったが自分に絡む。
最初はさすがに怪訝に思ったが、ここ数日での突拍子の無さを知り。
(これもその一端か)
と、深く納得した。
は振り返らず、ケラケラと笑った。
「忙しい時こそ遊ぶべきだっつーの」
「そんな暇は無いと言ってるんだ。大体廷内の何処に遊ぶ場所がある」
文句を言いながら、それでも腕を振り解こうともしない自分に気付いて、頬を染め日番谷は俯き加減で言う。
が振り返らなくて良かった、と安堵しながら。
それは日番谷も理解できずにいる感情だった。
苦手とする部類のそのど真ん中ともいえる、騒がしく自己中心的なになぜこうも自分は振り回され。
そしてそれを心の何処かで嬉しいと思うのか。
「想像力さ」
「ああ?」
「ちょっとした想像力さえあれば、沈黙の中に音楽も聴こえる。そういう事。」
「・・・・・・」
「建物も木々も、如何様にも。さて、今日は何をしようかなー♪」
日番谷は目蓋を伏せて笑った。
何も無い荒地でも、声の響かない空間でも、確かにという人物は自由だろう。
きっと笑っているだろう。
そして顔を上げて、の背中を見詰めて、日番谷は思う。
もしかしたら自分は、を、と。
しかし。
「絶対嫌だ!!誰がそんな事に加担するか!!」
「ここまで来たんだ、諦めろ!さあ、行って散って来い!」
そんな思考もすぐさま吹っ飛び、日番谷はを睨みつける。
行き着いたのは一番隊。
が提案した今日の遊びは、“山本総隊長の立派な髭を三つ編みに!!”だった。
日番谷が山本を羽交い絞めにし、その隙にが髭を編む。
その役割分担もアレだが、何故、そもそも遊びという名がつくものに命を懸けなければならないのか。
「というか既に遊びじゃないだろ!!」
「俺の中では断然愉快な遊びだ!男たるもの遊びにこそ命を懸けるのダ!!」
「そういうのは一人でやれ!」
「あ、冷たい!冷たい!俺に一人で死ねって言うわけ!?」
「負け戦だって自覚してんのにオレを巻き込むなーーーーー!!!」
普段出さない大声を出して、日番谷は喉の痛みを感じる。
小さく咳き込んで、涙目でを睨み上げた。
「兎に角、オレは御免だ。」
これで粘るようなら、日番谷はを苦手な部類の人種に確定し直したかもしれない。
しかし魔性の男であるは、そういう対人関係の距離を把握するのは天才的だった。
アッサリと引き下がる。
「そか。じゃあ中庭で昼寝でもするかー。いい天気だしな。」
人好きのする、愛嬌溢れる笑顔で再び日番谷の手を握り歩き出す。
その変わり身の速さに日番谷は唖然とした。
「な、なんで・・・」
「ん?だって本気で嫌なんだろ。一緒に遊ぶのに嫌がってる事したら駄目じゃん」
「・・・・」
引かれる手を見詰めて日番谷はここ数日の事を思い出した。
そういえば、無理矢理連れ回されはしていたが、結果楽しんでいたなと日番谷は考える。
忙しい時期故に溜まっていたストレスは見事解消され、寝つきも良くなった。体調も良くなっている気がする。
まさか。
日番谷はの隣に並んで顔を見上げた。手は、繋いだまま。
(まさか、こいつ・・・・)
しかしその想いはまたもや吹き飛ばされた。
「あーあー。絶対オイシイ遊びだったのになー。」
「・・・・・台無しだ」
「はあー?」
しかしそれでも、日番谷は笑いを堪えることができなかった。
中庭の大きな桜の木の下で、日番谷に待つよう告げては何処かへ行った。
残された日番谷は幹に背を預け、散る桜の花びらをボンヤリ眺める。
そういえば書類が残ってたな、と、こんな時でもそんな事を考えるのは職業病だろうか。
心地良い風に、自然と目蓋が重くなる。
「・・・・・・・」
日番谷は誘われるように眠りについた。
その頃十番隊では。
「・・・・・・で、何でが十番隊の、しかも隊長室で仕事しているの」
驚いた松本は、落としかけた書類を抱えなおして尋ねた。
「とーしろーは中庭に居るけど」
は筆を走らせながら答えた。
「だから、連れ出したアンタがここに居て何で仕事してるのよ」
「いやー、大分ストレスも解消できたみたいだし。後は睡眠かなと思って。」
その言葉で完全にの思惑を理解した松本は、長い髪を払って溜め息をついた。
つまりここ数日、毎日日番谷を連れ回したのは他でもない日番谷を思っての事で。
特別仲が良かったわけでもないのに。
強引に、しかし不自然さは感じさせずそうできるのはの人柄と才能だと松本は思った。
「全く・・・・素直じゃないわね」
「ウルセー」
そういうのも自覚がないから余計に一種の魅力になるのよね、と松本は苦笑いを零す。
はひと段落着いたのか、筆をおいて大きく伸びをした。
猫を思わせるその仕草に松本は微笑む。
「アイツはさー。他の隊長連中と違って際限なく働くだろ。手を抜ける部分も抜かないし。
だから優しい俺が息抜きさせてんの。強制的に」
「確かにここ数日で仕事のはかどり具合は飛躍したわね。」
「ふふん、だろ?」
「あんな風に感情的になる隊長は初めて見たわ」
「俺ってば人を怒らせる天才だからなー。嫌われちゃったなー」
松本は口に手を当ててクスクスと笑う。
「違うわよ」
「違う?」
「ええ」
隊長は好意を持たない相手には怒りもしないもの。
肝心な部分は告げずに微笑む松本。
は眉を顰めて松本を睨んだが、すぐに手元の書類に目を落とした。
その後。
「隊長。起きてください」
「・・・・・・・」
「隊長、もう夕方ですよ?」
「!!」
「夜風はまだ冷たいですから、続きは自室でどうぞ」
「いや、仕事が・・・は?」
「隊長の仕事を全て片付けて帰りましたよ」
「なっ・・・・・!」
「明日、お礼を言ってくださいね」
「・・・・・・・・・ああ」
「・・・・惚れましたね?」
「そこまで単純じゃねえ!!」
「どうだか。競争率は高いですよ?」
「だから違う!!」
「ハイハイ。」
結局は日番谷にとって春の嵐そのもの。
この先も容赦なく日番谷の心を乱し続けるのであった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
かおさんに捧げる日番谷隊長恋発展夢でした。ごめんなさい。
ほのぼのですか?ギャグですか?ダラダラじゃないですか?
あああ、もうほんと暫らく地面に埋まって反省します。
でも、でも誉は日番谷を愛しています!愛を注いでます!(結果はどうあれ)
頑張ったんです。受け取ってやってください、この愛を!!
そ、それではリクありがとうございました・・・・!!